理系私立大の将来は  

――最後に、理系のことに触れておきたいと思います。千葉工業大躍進の背景には、時代が理工系にシフトしていることも影響しているように思えます。私立総合大学の理工系学部は郊外のキャンパスに設けられる傾向が強いように見えますが、なぜでしょう。

後藤 へんぴなところに工学部があるのは、男子学生しかいらなかったからです(笑)。というのは半ば冗談ですが、研究室では、実験の途中で帰ることは許されない(笑)。田舎にあると、夜中に一人で下宿に帰宅するのもリスクがある。大学側は女子寮をつくるなど、もっと積極的に対策を取るべきでしたね。

井沢 13位東京理科大(5万698人)も女子枠を設けて、副学長の向井千秋さんを看板にしてアピールしていますね。

後藤 女性宇宙飛行士だったことがいまの学生にどのくらい響くのかは別として(笑)、上智大と並んで、東京理科大はこれまで文科省に尻尾を振らない数少ない大学でした。尻尾の振り方が下手くそだった、というべきなのかもしれませんが。

 入試日程が早いので、理系の国立大志願者にとっては併願しやすく、「天下の第二志望大学」という存在です。とはいえ、早慶の併願組はともかく、下位層からは怖くて受けられない存在になり、私立の理工系大学の中では宙に浮いたような存在でもあります。 

――特異なポジションということですね。他の理工系の私立大はいかがでしょう。

後藤 最近、人気が上がってきている23位芝浦工業大(3万6687人)や24位東京電気大(3万3124人)が東京理科大に次ぐ存在ですが、その間はだいぶ開いています。34位工学院大(2万476人)や私が勤務していた50位東京工科大(1万4147人)は、産業構造の転換を受けて、まだまだこれから追い上げていく感じでしょうか。 

 理工系学部が女子学生を増やそうとしています。かつて早稲田大の理工学部は建築と環境系(実は土木)に女子学生が多かったのですが、理工学部を三つの学部に再編する際、電気電子通信と生命系を組み合わせて理科の試験科目に生物を追加したことで、女子学生が増えました。

 試験科目に生物を導入したことは、私が早稲田の旧理工学部のお手伝いをしていたときの実績として、この歳になるとアピールしておきたいことの一つです(笑)。

井沢 理系人気ということでは、もともと文学部の中にあった心理学科を独立した学部にする動きが関西では続いていますね。まず同志社大が2009年度に学部化した後、立命館大は16年度に総合心理学部を大阪いばらきキャンパスに、そして龍谷大も文学部臨床心理学科を改組して23年度に設けています。

――龍谷大は他に農学部(15年度)を設けるなどして、23年度の志願者数では11位まで躍進していますね。ところで心理学は文系的なカウンセラー系と理系的なネズミを走らせる実験系に分かれるような気もします。

後藤 主には後者の方ですが、心理学にはデータサイエンスの要素もありますし、実は社会に出て一番求められる知識でもあるので、どこも人気化しているのだと思います。

 文系的な心理学の知識は、カウンセラーだけではなく、ビジネス現場における人間関係の調整など、社会で生きるスキルとして役立つと思います。心理学は良い意味でつぶしがきく学問といえるのではないでしょうか。