「子どもの言うことがどこまで本音なのかがわからない」という悩み

 冒頭で紹介させていただいた保護者の方は、志望校について親子で話をしたそうなのですが、「本人が行きたいと言っている中学校に、本当に行きたがっているようには思えない」のだそうです。

 正直に言って現状のままでは合格が厳しい成績で、本当に合格したいのならもっと勉強を頑張らなければいけないはずなのに、行動が伴ってこない。「本音ではもうあきらめてしまっているのかもしれない。果たしてどんな声かけをしていったらいいのでしょうか?」とのことでした。こうしたお悩みは、中学受験を控えるお子さんをもつ、多くの親御さんに共通するものではないでしょうか。

 私自身、娘を持つ父親として、子どもの本音がわからないときや、「これって本音なのかな?」と感じることがあります。普段の何気ない会話では本音で話すことができていても、勉強や中学受験の話になった途端、どっちつかずで曖昧な返答や、親の顔色をうかがったような返答が増えたりしますよね。

 例えば、勉強を教えるときに「わかった?」と子どもに聞くことがあると思いますが、そのときのわが子の「わかった」は果たして本音なのでしょうか? また、「〇〇中学なんてどう?」とか「どうせなら目標は高く持とうね」といった志望校の話をしたときのわが子の「うん」や「そうだね」などの反応はどこまで本音でしょうか?

 もしかすると、子どもは親の顔色をうかがって答えているのかもしれませんし、その場をやり過ごすために本音とは違うことを言っているのかもしれません。
 

「心理的安全性がある」ことが本音の会話につながる

 さて、本題に入る前に1つお願いがあります。普段の生活であなたがつい本音を話してしまう人やとても信頼できる人を1人思い浮かべてください。1人思い浮かべたら、最後にその人と会って話したときの様子をできる限り、鮮明に思い出してみてください。

 いかがでしょうか? きっと、その人とは何でも気兼ねなく話していたのではないでしょうか。そして、今思い浮かべた人は、きっとあなたの話を丁寧に聞いてくれるような人ではないでしょうか。ときにはその人から厳しい指摘をされたり、耳の痛いことを言われたりすることもあるかもしれません。

 けれど、その人から言われるとすんなりと受け入れられたり、自分自身も、逆にその人に対して素直な思いを言えたりしませんか? このような関係性を「心理的安全性がある」と言います。

 心理的安全性とは、簡単に言うと、「何を言っても何をしても大丈夫」という安心感がある状態のことです。何でも本音を言い合える関係というのは、自分が相手に対して本音を言えるだけでなく、相手からも本音が返ってくる関係です。

 自分にとって心地よいことしか言ってくれないのであれば、それは本音を言い合える関係とは言えません。ときには反論されたり、耳の痛いことや言われたくないことを言われたりする、ということでもあります。耳の痛いことを言われてもなお信頼関係が揺らぐことなく、お互いに言いたいことを言える状態、それが心理的安全性のある状態です。

心理的安全性」の構築には、子どもの話の聞き方が重要

 これを親子に置き換えると、「この人には本音を伝えてもまずは受け止めてくれるはずだ」と、子どもが親の顔色をうかがうことなく本音を言うことができる、そんな安心感を感じられる状態が理想、ということです。そして、親子間で心理的安全性のある関係性を築いていくためには、保護者の方の話の聞く姿勢がとても重要です。

 日々、子どもの話を聞けていますか? いや、“聴けて”いますか? ただうんうんとうなずいたり、片手間で聞いたりするのではなく、目と耳と心で子どもの話を聴けていますか? ハッとした方は、ぜひ今日からは聴くことに「専念」しましょう。

 子どもが話し終える前に親が話し始めたり、スマホを見ながら話を聞いたりするのではなく、聴くときは聴くことに全集中するのです。「傾聴」というやつですね。

 そして、話を聴くときに実践してほしいことが3つあります。これらを実践することで、子どもは安心して話をすることができ、次第に本音を話してくれるようになります。

子どもの話を聴くときに実践してほしい3つのこと

 1つ目は「反射」です。相手の感情を鏡のように反射し、感情に寄り添うのです。「〇〇を言われて悲しかった」「××できてうれしかった」、それらに対して「そっか、悲しかったんだね・うれしかったんだね」と鏡のように気持ちを伝え返しましょう。

 2つ目は「受容」です。「うん、うん」とうなずくことは、シンプルですが非常に大切です。話している子どもに自分の体を向けたりすると、より傾聴の姿勢が伝わります。

 先ほども伝えた通り、スマホをいじりながら〜、腕を組みながら〜、といった態度は避けましょう。些細なことですが、そのような態度は良くも悪くも子どもに伝わってしまうものです。友人や上司、お医者さんなどに自分が何か悩みを打ち明けたときに、片手間で話を聞かれたら決してよい気持ちにはなりませんよね。

 3つ目は「明確化」です。話の中でぼやけてしまっている感情や曖昧な事実を見つけ、より適切な表現に言い換えてあげましょう。子どもは自分の感情をうまく言語化できなかったりするので、子どもの気持ちを代弁してあげてください。

 例えば、「塾に行きたくない」「勉強が嫌だ」と話題にだしてきたのなら、「今日だけ行きたくないの?」「塾に苦手な子がいるの?」「わからないのが嫌なの?」といったふうに、子どもが本当に伝えたいと思っていることを掘り下げてあげましょう。そうすることで親はもちろん、子ども自身も自分の気持ちに気づくことができます。

 このときに、「反射」と「受容」を絶対に忘れないようにしてください。子どもの気持ちに寄り添うことを忘れて「明確化」しようとすると、それは「尋問」になり、子どもが心を閉ざす原因にもなりかねません。

まとめ|子どもに本音を言わせるひけつ

 以上3つ、傾聴の具体的な手法をお伝えしました。聴くことに専念するというのは、一見受け身のような印象を持たれるかもしれませんが、むしろ逆です。これは積極的な姿勢なのです。

 そして、あなたの周りの「聞き上手」と呼ばれる人や冒頭で思い浮かべた人は、自然にこれらを実践できていませんか? 私たちも見習っていきたいものです。

 もちろん、思春期の子どもを相手にするのはなかなか難しいことです。私も、わかってはいても完璧には実践できていませんし、だからこそ冒頭でお話ししたように「娘は本音を言えているのかな?」と不安になることもあります。ですが、やはり実践しようという意識を持つことで、徐々に変わってくるものだと思います。一緒に子どもとの良好な関係を築いていきましょう。