平均倍率は1.16倍と高くはない

 2025年度の埼玉県公立高校の全日制(普通・専門・総合学科)合格者は3万3,224人と発表された。埼玉県の中学卒業者はここ数年6万2,000人前後で推移していて、約63%が全日制の公立高校へ進学する。過剰な競争を避けるために、直前期に志願先を変更できる制度も影響し、平均倍率は1.16倍となった。

 高倍率の人気4校はすべて理数科。市立大宮北高校、県立大宮高校、県立所沢北高校、県立越谷北高校の理数科はすべて倍率が2倍以上だった。一方、女子校の人気は落ち着いている。県立浦和第一女子高校は2024年度の1.37倍から1.31倍へと低下、県立川越女子高校は2024年度が1.30倍、2025年度が1.18倍と連続して倍率が下がっている。

 一方で、高倍率の次年度は下がる「隔年現象」も起きている。2024年度に高倍率だった県立春日部高校、県立川口北高校、県立和光国際高校、県立蕨高校は2025年度は倍率が低下した。

一見、低倍率に思えても競争が厳しい訳

「平均倍率1.16倍」と書くと「埼玉の県立入試は競争が激しくない」と読めそうだが、実際にはそうではない。内申点が評価されることや1校しか受験できないこと、さらに合格した場合には必ずその高校へ入学しなければならないなどの事情から、出願する前に受験する生徒が絞り込まれる。いわゆる「記念受験」の受験生はおらず、全員が「本気でその高校に入学したい」と思って受験する。

 2月中旬に県立・市立高校の出願が行われ、翌日には出願状況が公表される。そのデータを見て志願先を変えることが一度だけできる。この制度を「志願先変更」という。

 2025年度入試の志願先変更後に大きく受験生が減ったのは、県立浦和高校、県立大宮高校、県立川越高校、市立浦和高校といった上位校だ。県立浦和高校は出願者が555人から526人と29人減少、県立大宮高校も523人から481人と42人減少した。埼玉の最難関2校の出願数を見て慎重な選択をし、難易度がもう少しやさしい高校を受験する受験生が全体の5~10%近くいることがわかる

 私立高校の受験がうまくいっていれば、「仮に県立が残念でも納得できる私立に入学できる。だから、難易度の高い憧れの県立高校にチャレンジしよう」と思うだろうし、反対に私立受験が不本意な結果になれば、県立は確実に合格できる高校を受験しようという方針になろう。

 そうやって、内申点や模試偏差値、私立高校の受験結果などで調整して受験校を決めるため、同レベルの学力や内申点の受験生同士の「本気の戦い」になるので、倍率は低いが厳しい戦いになる。1.16倍でも十分に激戦で、人気校だと1.3倍〜1.5倍となるのでさらに難易度は上がる。

 例えば、2025年度の県立大宮高校は1.5倍。内申点も模試偏差値も県内トップクラスの受験生たちの争いになるから、それはハードルの高い受験になるだろう。そのため、ちょっとしたケアレスミスで1点を落としたことで残念な結果になりかねない。

入試問題は共通、高得点を争う

埼玉公立高校入試 学校選択問題 英語
出典:令和7年度埼玉県公立高等学校入学者選抜学力検査問題等について

 さて、その埼玉の公立高校入試はどういうシステムなのか。まず入試問題について見ていこう。

 筆記試験(学力検査)の問題は、県内の高校で基本、共通である。東京都のような自校作成校はない。国語、理科、社会は「共通問題」。英語と数学は「学校選択問題」「学力検査問題」という2種類の問題に分けられる。

 学校選択問題は応用的な力を測る問題が多く、特に数学ではやや煩雑な計算や思考力を求める問題も出題される。一方、学力検査問題は基礎学力の定着を確かめるものが中心だ。

 そのため、難易度上位の高校は学校選択問題を採用する。2025年度入試では、県立浦和高校、県立浦和第一女子高校、県立大宮高校、県立川越高校、県立川越女子高校などの公立上位22校が学校選択問題を採用した。

 これらの上位校も国語や理科、社会は共通問題なので基礎的な分、80点台後半から90点という高得点を取り、差をつけるというより、差をつけられないようにする必要がある。そのため、基礎から標準レベルの問題を確実に得点すべく、幅広く抜けがないように学習する必要がある。

 一方で、難易度上位の高校を受けるなら、英語と数学は学校選択問題になるので、ハイレベルな問題に対応できるように対策をする必要がある。

 学校選択問題という共通問題導入後の難易度の上昇は明らかで、「英作文」「証明問題」「作図」といった埼玉の公立高校入試特有の問題以外にも、表現力・推論・説明力を要する出題が増えている。

 このような難問を「難しいから捨てよう」と割り切るわけにはいかない。一見、難しいから差がつかないと思われがちだが、むしろこういった応用問題はしっかりとした学習の積み重ねで得点することが可能であり、かつ差がつけやすい傾向がある。一方で明らかに後回しにしたほうがいい問題もあり、その選択ができるようにもしたい。

内申点だけではなく課外活動も評価される

 早稲田アカデミーの報告会でも登壇した小杉智尚大宮校校長は「東京から異動してきて、埼玉の公立高校受験は大変だと思いました」と話す。理由は、中学1年からの内申点も評価されるし、部活動などの活動実績や英検資格も評価されるからだ。公立高校の合格のためには、学力だけではなく他の部分も求められるのだ。

 また、埼玉の公立高校入試の学力試験は1回だが、選抜は2段階で行われる。第1次選抜で不合格の場合、第2次選抜で判定され、双方で内申点が評価の対象になる。学力検査と内申点の割合は「3対7」「4対6」といった割合で内申点重視の高校もあれば、「7対3」「6対4」という学力検査重視の高校もある。上位校ほど学力検査重視になる。

 さらに埼玉の場合、部活動などの課外活動や英検資格を「特別活動」「その他」として評価する。よって、公立高校受験を目指すためには、部活動や英検の勉強も頑張る必要がある。

 早稲田アカデミーの生徒たちの内申点を調査したところ、全体としてコロナ禍以前よりも平均値は上昇傾向にある。そのため、ここ数年は学力検査の力を測る模試の偏差値の結果よりも高めの高校を受験する傾向があった。

 一方で全体的に内申点が上がり、ライバルの内申点も上がっているので、差をつけるために学力検査での得点力をより高めることが重要だ。そして、内申点でも差をつけられないように、中学1年から定期テストで点数を取ることや、提出物をきちんと仕上げて出す、授業にも積極的に参加することが大切になる。