都立高校:志望率過去最低、定員割れが拡大

 小池百合子都知事が高校の授業料無償化に言及したのは2023年の年末で、多くの受験生はすでに受験校を決めていた時期だったので、2024年入試における影響はそれほど大きくありませんでした。そのため、2025年が実質無償化元年となり、影響も大きくなりました。

 影響はどう出たのでしょうか。

 東京都中学校長会と教育委員会が都内の公立中学3年生を対象に実施した進路希望調査では、全日制高校志望者における都立高校の志望率は70%を下回り、過去最低を記録しました。

 都立高校の一般入試の動向を見てみましょう。受験者数は3万5,877人で、前年から約3,000人減少し、過去10年で最低水準となりました。実質倍率は近年低下傾向が続いており、2016年の1.42倍から2024年度は1.35倍、2025年度は1.27倍となりました。全体の37%の都立高校が定員割れとなり、前年比で15校増加し、62校となりました。

 しかしながら、都立のトップ7校(進学指導重点校)は依然として高い倍率を維持しています。例えば、青山高校は1.68倍、戸山高校は1.69倍と高倍率です。都立の最難関である日比谷高校も前年の1.32倍から1.46倍に上昇し、高い水準です。それとは逆に、中堅都立高校では日野台高校が前年の1.32倍から1.10倍、多摩科学技術高校が1.41倍から1.00倍と倍率が低下しています。

 なぜ無償化の中でも、都立トップ7校の志願者は減らないのでしょうか。その理由は、学力上位層が受験する私立進学校の選択肢が少ないためです。特に女子の選択肢は限られるため、上位層の女子は都立高校を第一志望として受験し、引き続き人気が高い状況です。また、都立上位校は学習面での面倒見がよく、大学合格実績も好調な点が魅力です。

学力中位層は私立高校を専願するケースも目立つ

 一方、学力中位層は都立高校の受験を避け、私立高校への専願や推薦を選択するケースが増えました。私立高校は設備が充実しており、学力や進路の希望によって特進コースとレギュラーコースなどに分かれている場合が多く、自分に合ったコースを選べる点が魅力です。学力を伸ばしたい場合は特進コース、着実に学んで推薦で大学進学を目指す場合はレギュラーコースといった選択が可能です。

 また、早稲田やMARCHの付属校は相変わらず高倍率で、中堅の進学校では淑徳巣鴨高校や目白研心高校といった私立進学校も人気を集めました。都内の私立高校全体の応募倍率は2.97倍と、高い競争率を維持しています。

 この人気の背景には、授業料無償化の拡大が大きく影響しています。2024年度から世帯年収910万円未満の所得制限が撤廃され、都内在住であれば都外の私立高校に通う生徒も支援対象となりました。都が授業料(上限47.5万円)を負担し、10月頃に保護者に直接支給される仕組みが導入されました。都内私立高校の平均授業料は約48.5万円で、ほぼ全額がカバーされるため、経済的負担が軽減され、私立志向が高まっています。

入試制度の変更:男女合同定員と柔軟な日程

 2025年度の入試制度ではいくつかの変更がありました。2024年度から都立高校全校で男女合同定員に移行し、性別による定員枠が撤廃されました。また、推薦入試の日程が「原則1日」から「1日から2日」に変更され、グループ討論の導入や文化・スポーツ特別推薦での対面試験が可能になりました。

 一般入試では休憩時間が30分から20分に短縮され、効率化が図られています。さらに、インターネット出願やオンライン説明会の拡充により、海外在住の受験生も含めたアクセスの向上が進んでいます。これにより、受験プロセスがよりオープンで多様なものとなっています。

今後の受験戦略は?

 来年以降の東京都の高校入試はどうなるでしょうか。

 栄光ゼミナールの高校入試責任者・松田裕太郎氏は次のように述べています。

「私立高校の場合、授業料以外にも設備費や研修旅行の積み立て費などがかかります。そのため、完全な無償化とはいえませんから、そのあたりも勘案して判断されることもあるでしょう」

 人気私立高校の八王子学園八王子高等学校の公式サイトによると、1年次の納入金は入学金250,000円、授業料468,000円に加え、施設費192,000円、その他(教育充実費、冷暖房管理費、図書費)197,400円がかかり、合計1,107,400円です。助成金で賄える額を大幅に超えており、初年度だけで60万円以上の負担が必要です。

 負担の大きさを考えると、私立人気がさらに高まっていくのかどうかは不透明かもしれません。

 一方、都立高校は入学金5,650円、授業料118,800円で、その他の費用も安く設定されているため、助成金でほぼ全額賄える完全無償化が実現しています。

「今年は都立高校の志願者が減りましたが、来年以降もこの傾向が続くかは注目です。都立高校の中で特に大学進学指導に力を入れている『進学指導重点校』をはじめとする人気校は多くの志願者を集めています。都立高校では志願者数において、二極化が進んでいく可能性があります」(松田氏)

 また、石破茂首相が公立高校の受験の障壁を減らすため、一つの高校しか受験できない「単願制」の見直しに向けた検討を関係省庁に指示したことが報じられています。今後、東京都でも複数の都立高校を志願できるようになる可能性があり、実現すれば都立高校の人気は上がってくるかもしれません。