緊張の正体:ノルアドレナリンの適切なコントロールノルアドレナリンの役割
緊張とは、脳内の神経物質であるノルアドレナリンが過剰に分泌されている状態です。ノルアドレナリンは、普段から何かを意識する際に分泌され、集中力や注意力を高め、パフォーマンスを向上させる効果があります。
しかし、過剰に分泌されると恐怖感を覚え、パニックに陥りやすくなります。極度の緊張状態は、パニック障害と脳内で起こっている現象(ノルアドレナリンの過剰分泌)が極めて似ており、普段の力が出せない状況を生み出します。
心臓の音がバクバク聞こえたり、手足が震えたりするのは、ノルアドレナリンの過剰分泌により交感神経が興奮している状態です。この時、脳に血流を集中させるため皮膚の血流が下がり、顔面蒼白になることもあります。
集中している状態ではノルアドレナリンが多く分泌されますが、意識しすぎる(過度に集中しすぎる)と、かえってパフォーマンスが低下する可能性があります。目指すべきは、ノルアドレナリンが「ちょうど良く出ている」状態です。
緊張は「悪いもの」ではない
緊張とは、受験を真面目に、真剣に考えていることの証明です。真剣に考えているからこそ、「準備」を徹底的に行い、結果的に実力を発揮できる可能性が高まります。緊張を抑えようとすると、かえって緊張が高まる傾向があるため、「緊張は良いもの」「今、人生の貴重な経験をしている」と客観的に受け入れ、怖がらないことが重要です。
緊張を力に変えるための心の準備 目的志向性(ゴール)の明確化
ストレスに強い人は、目的思考性を明確に持っています。
- 人生の大きな目的を持つ:受験は、人生の大きな目的を達成するための「手段」であり、大学合格自体を「ゴール」としない考え方です。
- 臨機応変さを持つ:目的を明確に持ちつつも、そこへの行き方(ルート)は一つではないと達観することで、目の前の受験の結果に過度に囚われず、緊張を和らげることができます。
- 訓練で変えられる:目的思考性は、訓練や時間をかければ身につけることができる「性格」に属します。遠い未来の壮大な目的を持つほど、日々の生活や勉強に良い影響が反映されます。
人前で話す真の目的を「自分が失敗しないこと」ではなく、「聞き手に内容を理解してもらうこと」だと捉え直すと、自分が多少格好悪くても目的を果たせれば良いと考えられ、緊張が緩和されます。
パニックを未然に防ぐ「最悪の想定」戦略
本番でパニックに陥らないためには、失敗への耐性を事前に作っておくことが極めて重要です。
最悪のストーリー作り
受験で「一番最悪なパターン」を具体的にイメージし、「そのパターンに陥っても人生は上手くいく」というストーリーを事前に作っておきます。最悪を想定することで失敗への恐怖に慣れ、本番で良くないことがあってもパニックにならず、徐々に集中力を回復させることができます。
達観することの重要性
「受験が人生の全てではない」「落ちても命までは取られない」と達観して物事を捉えることで、過度な緊張を緩和できます。
滑り止め対策
準備によって合格できるという自信がある状態(A判定など)であれば緊張度は低くなります。また、滑り止めを受験し合格を得ておくことは、第一志望校に緊張せずに臨める一つの有効な手段です。
緊張をコントロールするための身体的・行動的な慣れ練習による「無意識化」と身体操作慣れ
本番は誰でも緊張しますが、過去問演習や模擬試験を繰り返すことで緊張という状態に慣れることができます。特に重要なのは、問題を解く手順を「体が覚える」レベルまで反復練習し、無意識化することです。
ルーティンの徹底
試験当日に何も考えなくても、まずは問題全体を見回してペース配分を考える、途中で休憩を入れるなど、自然に問題を読み始められるように徹底的に反復練習しておくことが大切です。これは、スポーツや自転車に乗るのと同じように、体が勝手に動く状態を作り出すことを意味します。
会場への慣れ
試験会場では独特の緊張感があるため、オープンキャンパスで受験校に慣れる、模擬試験で本番の会場と近い雰囲気を経験するなど、できるだけ異なる会場での受験に慣れておくことが推奨されます。
脳の準備と不安の解消
受験の直前期は、不安を和らげ、脳を本番モードに整えるための具体的な準備が役立ちます。
「お守り」参考書の作成(マイブック)
試験2週間前などの直前期は、新しい問題に取り組むのではなく、「これを見たら大丈夫」と心から思える直前対策用の参考書やノート(マイブック)を自分で作っておきます。自分の書き込みがある一冊を試験直前にパラパラと見ることで、自分が全て分かっているという安心感と、精神的な落ち着きを得ることができます。
ストレスの可視化
自分のストレスの原因や不安に感じていることを紙に書き出すことで、漠然としたストレスが具体化し、軽減される可能性があります。
「笑う」練習
パニックになりそうになった時、あえてクスッと笑う練習をしておくことも有効です。感情をコントロールする訓練となり、気持ちを切り替える癖をつけられます。
型に合わせた学習
普段の勉強では自分の朝型・夜型のリズムに合わせて、最もパフォーマンスが高い時間に勉強を集中させることもあると思いますが、試験本番や模擬試験が近づいてきたら、実際の試験が行われる時間帯に合わせてその科目の勉強をするのも有効になります。
自律神経と緊張緩和法
自律神経で制御される臓器の働きは意識でコントロールできないものですが、呼吸だけは唯一意識的に制御できます。
深呼吸
深呼吸の際に息を長く吐くと、リラックスを促す副交感神経が優位になり、心拍が緩やかになるという生理学的効果があります。ただし、極度に緊張している時には、深呼吸の緩和効果は限定的であることを理解しておきましょう。
筋弛緩法
手足に力を入れてから一気に力を抜くことで、副交感神経を優位にし、緊張を解く効果があります。これも深呼吸と同様、過度な緊張状態では効果は限定的です。
試験中の食事とカフェインの注意点
入試の休憩時間中の食事は、緊張状態にある身体に負担をかけないよう注意が必要です。
・絶対に腐らないもの(火が通っているもの)
・消化が良いもの(おにぎり、卵など)
・刺激の少ないもの(辛いもの、脂っこいものなどを避ける)
炭水化物(糖分)を多く含むおにぎりなどが定番で推奨されます。
・生の食品
・カフェイン飲料(レッドブルなど)
カフェインは覚醒作用がありますが、緊張している時に摂取すると、心臓の動悸(バクバク)を悪化させ、かえって緊張感を高める可能性があるため避けるべきです。
まとめ
受験本番の緊張は、乗り越えるべき試練であると同時に、あなたを成長させる貴重な経験です。ノルアドレナリンによる生理的な反応は避けられませんが、「最悪を想定した心の準備」と「目的志向性による達観」、そして「日々の徹底した練習による無意識化」によって、その作用をコントロールすることは可能です。
合格がすべてではないと達観し、最後の最後まで努力した自分を信じ、そして本番でパニックに陥りそうになった時には、深呼吸とともに「落ちても命までは取られない」と心の中でつぶやいてみてください。冷静さを取り戻し、練習で培った実力を遺憾なく発揮すること。それが、受験という修行を通じて得られる、最も重要なスキルとなるでしょう。
技術協力:片岡洋祐氏(脳科学者)


