私立大学は三極化している
日本私立学校振興・共済事業団から、「令和7(2025)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」が発表されました。これによると、足元での私立大学の入学定員充足率(定員に対する入学者数)は98.19%から101.61%に上昇し、入学定員未充足の私立大学の割合は59.2%から53.2%へと減少しています。
それは、高等学校等新規卒業見込者が927,214人から936,986人へと101.1%増加した中で、入学定員を私立大が減らした(1,114人減)ことや、大学の収容定員厳格化による合格数絞り込み(24,980人減)⇒合格率低下(42.2%⇒38.8%)⇒歩留まり率向上(33.2%⇒34.9%)により、入学者が増加した(16,107人増)ことも影響していると思います。
一方で中期的にみると、筆者は現状では私大は「三極化」しているとみています。

関西圏では、以前からタイプⅠ~Ⅲに分かれていましたが、首都圏では2025年度入試からタイプⅡが加わり、首都圏・関西圏ともタイプⅠ~Ⅲの三極化状態になったのです。
少子化の中でも東洋大の「年内学力型」入試は大成功
東洋大学は、2025年度入試で「学校推薦入試 基礎学力テスト型」を導入して大きな話題になりました。首都圏では、タイプⅡの代表格といえるでしょう。その「学校推薦入試 基礎学力テスト型」の結果は以下の通りです。
【関連記事はこちら】>>首都圏の私大入試でも「2教科試験だけの年内入試」がついに登場! 東洋大学の新入試が与えるインパクトとは?
募集人員578人に対して、のべ志願者19,610人(2出願までは受験料が同額で、3出願以上も出願可能)、のべ合格者4,194人(1人で複数合格する場合もあります)、入学者は906人(実数)と、募集人員の156%にのぼりました。入学者数が想定以上に多く、入学者募集面では大成功といえます。
次に、教科学力面の点で検証してみます。【図1】は東洋大学の入試方式別の偏差値帯別合格者分布です。各入試区分の合格者を100%とし、合格者がどの偏差値帯に何%いたのかを表したものです(ベネッセコーポレーションが調査した結果をもとにしていますので、全合格者数とは異なる可能性が高いのですが、傾向をつかめると思います)。
2024年度までは、東洋大学も公募推薦では「基礎学力テスト型」を実施していませんでした。一般選抜合格者との学力差は、一般選抜のボリュームゾーンは偏差値60台前半なのに対して、公募推薦と総合型選抜のボリュームゾーンは偏差値40台前半と、偏差値で約20もの差がありました。これは、公募推薦や総合型選抜で教科や科目に係る学力テストを実施せず、別の観点で合格者を決定していたためです。偏差値という学力を測る「モノサシ」で比較すると、一般選抜合格者と差異が生じるのは当然といえます。
しかし、2025年度入試では、「基礎学力テスト」型の導入により、公募推薦合格者の学力層は偏差値60台前半となり、一般選抜合格者の偏差値層に近くなりました。総合型選抜は2024年度同様に2025年度も学力とは別の観点で合格者を決定しましたので、大きな変化はみられませんでした。
【図1】東洋大入試方式別の偏差値帯別合格者分布(2024年度~2025年度入試)

2025年度の東洋大学偏差値帯別合格者の分布をもう少し細かくみていくと、【図2】のようになります。【図2】は一般選抜を「共通テスト利用方式」と東洋大学独自で出題する「一般入学試験」を区別して算出したものです。「基礎学力テスト型」と「一般入学試験」のグラフの形状はほぼ同じとなっており、「基礎学力テスト型」は2月に実施する「一般入学試験」と同じような学力分布だったとわかります。
【図2】東洋大入試方式別の偏差値帯別合格者分布(2025年度入試)

年内の「基礎学力型」で、2月の「一般入学試験」と同程度の学力の合格者を確保できたのですから、東洋大学としては「基礎学力型」を廃止する理由はありません。2026年度は、学校長の推薦書が不要(併願可能な推薦入試であっても、1人の生徒には1大学推薦に限るといった校内ルールを設けている高校等もあり、出願できなかった受験生もいたため)の総合型選抜「基礎学力テスト型入試」として、募集人員も641人に増やします。試験会場も2025年度は首都圏会場のみの実施でしたが、2026年度は札幌市から福岡市まで全国に学外会場を広げて実施する予定で、さらに多くの合格者の確保を見込んでいるのでしょう。
「年内学力型入試」は首都圏で拡大する
この東洋大学の結果は、以下の2点の理由から他大学にとって脅威であり、対抗せざるを得ません。
1点目。一定の学力のある受験生を東洋大学が「基礎学力型」で合格を出すことにより、他大学の受験を取りやめる可能性があるからです。筆者が確認(2025年8月16日時点)できただけでも、2026年度入試では、首都圏で約40大学が年内学力型入試を実施(前年からの継続実施大も含む)する予定です。
2026年度入試においては、学校推薦型選抜や総合型選抜は2月1日より前で、「教科・科目に係るテスト」実施についてのルール(令和8年度大学入学者選抜実施要項)の発表が2025年3月だったため、2026年度入試で「年内学力型」の実施を見送った大学もあります。このため、2027年度以降も「年内学力型」に参入する大学、つまり三極化のタイプⅡ大学がしばらくの間は増えていくと筆者はみています。
2点目。東洋大学に対抗して、併願可能な「年内学力型」入試を実施する大学が増えるということは、これまで以上に入試が早期化します。これまで年明けの一般選抜でいくつかの大学を併願受験していたように、年内でも併願受験する受験生が増えていくでしょう。年内に合格を勝ち取って進学先を早く決めたいという受験生・保護者のニーズは高いのです。
首都圏の2026年度入試を例にとると、10月4日・5日に帝京大学、11月16日に神奈川大学、11月23日に大東文化大学、11月30日に東洋大学といった「年内学力型」受験スケジュールを組むことも可能なのです。
また、年明けの一般選抜で本命の大学を安心して受験できるように、「年内学力型」で合格大学を確保しておくという受験生も出てくるでしょう。このような受験戦略は関西圏では以前から行われてきましたが、首都圏でも同様の動きが出てくると思います。
11年間で関西の入試は激変した!関西で起きたことは、いずれ首都圏でも起きる!
【図3】は関西圏私立大学の入試方式別入学者の割合を、2013年度入試と2024年度入試で比較したものです。
「関関同立」は一般選抜(2013年当時は一般入試)での入学者の割合は11年間でほとんど減っていません。系列校からの入学者の割合がやや増えています。この大学群が三極化のタイプⅠです(「関関同立」でも公募推薦は行われていますが、「年内学力型」ではありません)。
「産近甲」は、一般選抜の割合は5ポイント減らしていますが、公募推薦(「年内学力型」で合格者を決定する)は2ポイント増やしています。一般選抜と公募推薦を合わせた「学力型」での入学者の割合は71%⇒68%とやや減らしているものの、約7割は「学力型」での入学者です。東洋大学も今後このようになっていくのではないでしょうか。
「摂神追桃」は、公募推薦での入学者の割合は2ポイント減にとどまっていますが、年明け一般選抜での入学者は12ポイント減と大きく減らしています。一般選抜と公募推薦を合わせた「学力型」で入学する受験生の割合は、依然として過半数は超えているものの、「年内学力型」で進学する生徒が多い大学という印象になります。「産近甲」や「摂神追桃」といった大学群が、三極化のタイプⅡに該当します。
※関関同立:関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学。産近甲:京都産業大学、近畿大学、甲南大学。摂神追桃:摂南大学・神戸学院大学・追手門学院大学・桃山学院大学。
【図3】関西圏私大の入試方式別入学者の割合
龍谷大は2024年度入学者の内訳を上記資料に掲載していないため除外。同志社大の2013年度入学者内訳は同大学の公表資料から作成。
地元大は阪南大・大阪商業大・大阪経済法科大・帝塚山大・太成学院大・関西国際大・園田学園女子大・羽衣国際大の合算。
「その他」は帰国生入試・社会人入試・スポーツ推薦・外国人対象の入試など。
「地元私大」は、11年前は、一般選抜と「年内学力型」の公募推薦で約4割は入学していましたが、一般選抜・公募推薦とも大きく減らしました。三極化のタイプⅢに該当するこれらの大学(全ての大学ではありませんが)は、【図3】を見る限り、年内・年明けを問わず「学力型」で大学進学を目指す受験生を集められなくなってきていると考えられます。
首都圏では、今後「年内学力型」入試への参入大学が増えていくと予想していますが、数年後には関西圏のように、「年内学力型」で入学者を確保できる大学は限られていき、他の大学は「年内学力型」に参入したものの、思うように入学者を集められないことになる可能性があります。
タイプⅢで大きく増やしているのは、非「学力型」である総合型選抜です。受験学力に自信はないものの、個性や強みを評価してほしい受験生を集めていると推測されます。入学者募集は総合型選抜に重点を置く傾向が強まっていることがわかります。
また、「摂神追桃」では指定校推薦での進学者の割合を大きく増やしていますが、「地元私大」では微減傾向です。冒頭に紹介したとおり、過半数の私立大学は入学定員を充足していないため、入学者を確実に確保しようと指定校推薦の枠を広げたり、基準を緩和したり、指定校推薦対象校を増やしたりしています(一方、学生確保に苦しんでいない一部の大学は指定校推薦での入学者を減らす動きがあります)。
このため、生徒1人あたりの指定校推薦数が単純計算(指定校推薦枠数/生徒数)で、17大学を超える高校もあり、選り取り見取りの状態が生じています。かつてはある大学の指定校推薦に喜んで応募していた高校生が、例えば受験難易度が高かったり、知名度が高かったり、多数の学部を擁していたりする総合大学から同じような条件で指定校推薦に応募できるようになれば、別の大学の指定校推薦に応募してもおかしくはありません。このような現象は、全国的に今後も続くのではないかと思います。
募集停止した2大学に何が起きたのか
ここで、募集停止した神戸海星女学院大学と京都ノートルダム女子大学の入試方式別の入学者数の推移を【図4】にまとめました。
【図4】入試方式別の入学者数の推移
一般選抜と「年内学力型」の公募推薦を合わせた入試方式を「学力型」としてみると、2013年時点で、神戸海星女学院大学は68%、京都ノートルダム女子大学も41%と少なくなかったのです。この「学力型」の入学者数は、神戸海星女学院大学では2013年から2022年に52人⇒6人、京都ノートルダム女子大学では2013年から2024年にかけて132人⇒32人と減少し、募集の中心は「学力」以外の入試方式に移行したことがわかります。「学力型」試験を実施しても入学者が集まらなくなったのです。
代わって指定校推薦にシフトしましたが、京都ノートルダム女子大学は2013年⇒2024年で131人⇒84人、神戸海星女学院大学は一時的に増加したものの、2016年⇒2022年で52人⇒11人と大きく減らしました。そして、総合型選抜(旧AO入試)をみると、京都ノートルダム女子大学は直近4年間の入学者数はほぼ横ばいで、大きく増やすことができませんでした。
「学力型」でも指定校推薦でも入学者が集まらなくなった中で、定員割れリスクを回避するために年内に確実に入学者を確保するために、年内入試の総合型選抜で合格者を確保しておきたかったところです。しかし、総合型選抜で集めていく必要があるのは他の「地元私大」も同じです。
特に、受験難易度の低い大学の総合型選抜は、提出書類の数や分量を減らしたり、課題を事前に発表して事前提出させたりと、軽量化(負担減)の方向に進んでいます。また、事前課題や志望理由書を提出する前に大学側が添削やFB、面接対策講座を開催したりするサービスを行う大学も少なくありません。
総合型選抜での入学者確保に向けて各大学(特にタイプⅢ)はしれつな競争を繰り広げており、少子化の影響もあいまって、総合型選抜での入学者確保も容易ではありません。このような事情から、学生募集がままならない状態に陥りやすいのはタイプⅢの大学でしょう。
将来は二極化へ
【図3】のように、地元私立大学が「年内学力型」「一般選抜」入学者を減らし、総合型選抜が増えていった傾向は、受験難易度の低い大学群から上位大学群に徐々に広まっていくのではないかと個人的にはみています。
近年の高校生は、「大学には行きたい。でも勉強したくない」が大多数の現実(教育評論家 安田理氏)といわれています。できるだけ負担なく、早く大学に合格したい・させたいという受験生・保護者のニーズと、2026年度入試以降は高校等の卒業見込者数が減少する環境下の中、一方大学側は(一部の大学を除き)、生き残りをかけて受験生に受験校として選ばれやすくする工夫(科目数減や平易化、提出書類の簡素化、選抜基準の緩和、出願前のサービスの充実など)を進めるでしょう。このように受験生・保護者と大学の方向性は一致しているのです(個人的には、これは決してwin-winの関係だとは思えません)。
そうすると、タイプⅡの割合が減少してゆき、その先には、より学力の高い入学者を確保するために入試の重量化(科目数増・入試問題の難易度アップ、選抜基準の厳格化)をする大学と、軽量化する大学に二極化し、受験生側も、重量化大学を目指す少数の受験生とそれ以外の多数の受験生に二極化していくのではないかと思うのです。
タイプⅠの難関私立大学の中にも、英語の配点を下げたり(一般的には受験難易度の高い大学群ほど一般選抜での英語の配点が高い)、2科で受験できたりする入試方式を加える大学(軽量化)が出てきていますし、タイプⅡの大学の中にも「一般選抜」「年内学力型」テストの英語の配点を上げたり、出題範囲を広げる大学(重量化)もあれば、「年内学力型」テストが1科(2科の大学が多い)に減らす大学もあり、タイプ内でも差が生じていますし、タイプⅡからタイプⅢに移動するような大学も出てきています。
イメージ化すると、【図5】のようになります。
【図5】三極化⇒二極化のイメージ図
高校選びの重要性
三極化状態の現在でもそうなのですが、各高校等がどのタイプの大学進学をターゲットにしているかによって、高校での指導内容や雰囲気も変わっていきます。HPで合格実績を公開している高校は少なくありませんが、私大の場合は1人で複数の大学に合格するケースも少なくありませんので参考程度としてみておくのが良いでしょう。
中には、進学先大学と人数を公開している高校や、進学先大学の入試方式を公開している高校もあります。そのデータは高校選びのポイントのひとつになります。進学者数や入試方式を公開していない高校でも学校説明会などで個別質問をすると答えてくれる場合があります。
そういう意味では、これまで述べたような大学入試状況を鑑みると、中学受験・高校受験での学校選びは、大学受験を見越して検討する必要があるといえます。


