「勤勉さ」は練習によって身につけられる

 アイゼンバーガーは妻が教員だったため、学校の生徒たちを対象に、同じ実験を短期間で行う機会を得た。たとえばある実験では、小学2年生と3年生の生徒たちに、まず簡単な課題(ものがいくつあるか数える、絵を覚える、形合わせのゲームをするなど)をやらせて、ごほうびに小銭を与えた。

 子どもたちが簡単な課題に慣れて上達したところで、何人かの子どもたちには、もっと難しい別の課題をやらせた。いっぽう残りの子どもたちには、別の課題でも簡単なことをやらせた。どちらのグループの子どもたちにも、小銭を与え、「よくできました」とほめた。

 そのあとで、両方のグループの子どもたちに、リストに並んでいる単語を紙に書き写すという単純な課題を与えた。その結果は、ラットの実験結果とまったく同じだった。

 難しい課題を与えられていた生徒たちのほうが、ずっと簡単な課題を与えられていた生徒たちよりも、単語を書き写す課題に黙々と熱心に取り組んだのだ。

 アイゼンバーガーは「勤勉さは練習によって身につけることができる」と結論を下した。

 そして、セリグマンとマイヤーによる「学習性無力感」(回避できないストレスを繰り返し与えられた動物は、なにをやっても無駄だと思い、逃げる努力すら行わなくなる)の研究に敬意を表し、アイゼンバーガーはこの現象を「学習性勤勉性」と名付けた。

 この研究の重要な結論は、「努力と報酬の関連性は学習することができる」ということだ。どうやらラットも人間も含めて動物は、体験をとおして「努力と報酬の関連性」を学ばない限り、放っておくと怠けてしまうようにできているらしい。動物は進化の過程において、必死な努力をしなくてすむときは、なるべく手を抜くようになったのだ。