人は周囲の期待に無意識に応える!
驚くべき「ピグマリオン効果」

 そしてその理由は、ズートピアの中で述べられている。登場人物の1人(登場動物の1匹)が、こう告白する。「周りが自分に対して持っていたステレオタイプのせいで、自分は理不尽にいじめられたり傷つけられたりした。社会が自分をそう見るならば、自分はそうやって生きていくしかない」、と。

 これは心理学で「ピグマリオン効果」と呼ばれているものだ。有名な実験がある。大学教授を装った実験者が、小学校の教師に、ある生徒たちのことを「最新の知能テストで抜群の点をとった将来性の高い子たちだ」と教える。だが実際には生徒たちはランダムに選ばれただけの子どもたちだった。この後、実験者は生徒たちの成績の変遷をチェックする。すると「優秀だというウソを言われた子どもたち」の方が、そうではない子たちよりも、実際に成績が伸びたのだ。

 この実験を行ったローゼンタールとジョンソンは、教師が「この子は才能があるから、伸びるはずだ」と信じ、一生懸命に教育するために起こったのだ、と説明づけた。これは、子どもの本当の能力とは関係なく、周りが「そう思う」と、その期待に応えて子どもが「そうなる」というメカニズムを示している。

 ズートピアで描かれているのは、ネガティブなステレオタイプによって「負の期待」を背負ってしまった登場人物が、それに(図らずも)応えて社会のアウトローになってしまうという、ピグマリオン効果の犠牲者の姿だ。ヘッドスタート計画で、ステレオタイプを持った白人が黒人と接した時、同じことが起こったのは想像に難くない。

 現実の職場でもこういうことは起こる。実力はあるが、えこひいきの激しい上司のもとで育った部下などが典型だ。上司に気に入られれば、チャンスも与えられ、愛のあるサポートも受けられて、本人のポテンシャルを最大限に発揮できる。逆に嫌われると、本当はポテンシャルがあるにもかかわらず伸びることができない。その上司が「部下のポテンシャルを見る目がなかったら」悲劇的なことになる。

 この意味で、ステレオタイプを持つことは、個々が持っている真のポテンシャルを見る目を曇らせてしまう可能性がある。ピグマリオン効果を防ぐためにも、ニュートラルに個人を見ることは大切だ。だが、結局のところ、それをうまく行えるような制度的な仕組みは考えられていない。個人個人が自分の持っているステレオタイプを自覚し、それに囚われないようにすること以外に具体的解決策はない。

 ズートピアの中でも、ある動物が不用意に言ったステレオタイプ的セリフを、別の動物が柔らかく諫めるシーンがある。そのことで、その動物は自分のステレオタイプに気づき「しまった」という感情を持つ。このプロセスは、多様な人種、多様な価値観が同居する社会では、絶えず必要となるのだ。