中国は頓挫寸前のTPPを笑っていられるか2015年10月5日に締結された「環太平洋経済連携協定(TPP)」だが、その先行きが危うくなっている。Photo:首相官邸

 ほぼ1年前の10月5日、米国や日本、オーストラリアなど12ヵ国の閣僚が、「環太平洋経済連携協定(TPP)」を締結したというニュースが中国にも届いた時、中国のネット上ではそれを嘆く声が上がった。

「TPPによって米国は中国に対する包囲網を完成させた」と確信を込めて言う者もいれば、「中国経済の国際化は『大崩壊』に陥り、中国が享受してきたグローバル化によるボーナス期もこれで終わる」と、大げさに公言する者まで現れた。一部の中国人からすれば、TPPは「中国人を抜きにして遊ぶ」ゲームのようなものであり、彼らの目には、あたかも西側が中国を仲間外れにする排他的なクラブを作りたがっているかのように映るのだ。要するに、中国を巡る国際経済環境は、極めて危険な段階に突入しているということになる。

 しかし、皮肉なことに、TPPに対して多くの中国人がまるで災難が降りかかったかのような恐れを抱いていた頃、今年の米国大統領選挙で注目されているドナルド・トランプ氏やヒラリー・クリントン氏、そしてバーニー・サンダース氏らがみな「TPP反対」を表明し、反TPPが米国大統領候補者たちの共通姿勢となってしまった。言い換えると、この1年で米国の政治や経済の情勢が変化し、早々にTPPの終了を宣告することもあり得るということだ。

「TPP恐怖症」から「自然消滅の瀬戸際にあるTPP」へと事態が展開していることは、多くの人々が世界情勢を見誤っていることの表れであり、さらに米国の政治情勢が大きく変化しつつあることを物語っている。

米国大統領選挙の犠牲となったTPP

 TPPが災難に見舞われたのは、米国大統領選挙の年と重なってしまったことが関係している。10ヵ国以上のアジア太平洋の国々との間で、TPPの調印にこぎつけようとしていた頃、米国は得意になっていた。なぜなら、TPPによって米国はアジア太平洋地域でのリーダーシップを強化することができると同時に、発展の著しいアジアにおける「経済ボーナス」の利用をさらに拡大させ、米国の製造業と輸出の回復を図ることができるからだ。