昔は代表的な性感染症として知られた梅毒だが、患者数が急増している。現在の法律に基づく調査が始まって以降、今年は既に最も患者数が多かった昨年の報告数を上回っている(国立感染症研究所「感染症発生動向調査」による)。かつては遊び人がかかる病気というイメージが強かったが、現在は「梅毒」という病気を知らない若い女性の患者が増えていることが大きな要因にもなっている。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
皮膚科から回されてきた
あどけない女子高生患者
「梅毒の疑いあり」――
所見と共に皮膚科から回されてきた患者は女子高生だった。
全身に淡紅色をした爪ぐらいの大きさの斑点ができている。梅毒の症状の1種「バラ疹」だ。感染3ヵ月から3年までの間に出現することが多く、痛みもカユミもない。放置していても自然に消えるが、年頃の少女にとっては一大事。心配する母親に付き添われ、大慌てで受診したのだった。
「梅毒ですね」
抗体検査を実施し、診断結果を告げると、母親が「えっ」と聞き返した。もう一度病名を告げると、たちまち目から涙があふれ出す。口元がワナワナと震え、言葉が出ない。
一方娘は、状況が呑み込めないのかきょとんとしている。
(こんなあどけない女の子が梅毒とは…)
同年代の娘の父でもある感染症専門医F氏には、母親の気持ちがよく分かる。それだけに、仕事とはいえ気が重くなるのだ。治療のために、性交渉の経験やら同性愛の有無など、非常に聞きづらい事柄についても、問診しなければならない。母親にはとても聞かせられないし、少女の側も、F氏のようなオジサンには話してくれないだろう。
婦人科医の協力を仰ぐことにして、院内電話に手をかけた。
梅毒の感染拡大が止まらない
このままでは年末に4000人を突破!?
この数年、梅毒の感染拡大が止まらない。2015年の報告数は過去10年で最多の2660人。14年より1000人増だったが、今年は8月後半(8月21日)の時点で既に2674人。このままいけば年末には4000人を上回る可能性が高いと見られている。地域別では関東が1484人と最も多く、次いで近畿542人、中部の282人と続く。