世界最大の原発市場である米国では、“原子力ルネサンス”の機運が高まっていた。

 米国政府は今年2月、ボーグル原子力発電所(ジョージア州)の2基に対して、83億ドルの債務保証を供与することを決めた。同時に、原発の新設ラッシュが続くことを睨んで、政府による債務保証枠を185億ドルから545億ドルへと拡大させる方針を表明していた。

 政府による債務保証制度とは、原発建設時の債務──新設には1基当たり約4000億~5000億円の投資が必要──を政府が保証する制度であり、前ブッシュ政権下で定められた。1979年の米スリーマイル島の原発事故以来、途絶えてきた原発新設が約30年ぶりに動き出したのだ。

 原発の新設ラッシュ、旺盛な電力需要を睨み、東芝、三菱重工業、日立製作所の日系プラントメーカー3社は、こぞって米国を最優先市場と位置づけた。新規導入国向けとは異なり、ややこしい政治の駆け引きもなければ、プラント建設から運転支援・メンテナンスといったパッケージ提案をせずともよい。日系プラントメーカーにとって、米国は、手のかからない魅力的な市場だったのだ。

 ところが、である。11月の米国中間選挙で民主党が大敗し、保守派の茶会党が勢力を増したことで、「オバマ政権が進めてきた原発推進政策の雲行きが怪しくなった」(プラントメーカー幹部)。茶会党の台頭で財政支出の拡大に批判が集まり、速やかに雇用対策効果が生まれるわけでもない原発への支出(債務保証枠)を遅らせようとする動きが出てきたのだ。

 米国の原発ビジネスにおいて、成功のカギを握る最重要ファクターは、ファイナンスである。なかでも政府の債務保証を受けられるかどうかが成否を分けるのだ。東芝が参画するサウステキサス・プロジェクト、三菱重工が参画するコマンチェピーク・プロジェクトの双方が、政府債務保証を受けることを前提にビジネスを進めている。原発推進政策の後退は、プラントメーカーに甚大な影響を与えることになりそうだ。

 一例がある。最近、仏企業連合(アレバ、EDF)と米コンステレーションが参画していたカルバートクリフス・プロジェクトが棚上げになった。その一因には、政府による債務保証を受けるときの保証料(フィー)が高く採算が合わないとの判断があった模様だ。そのため、コンステレーションがプロジェクトから抜けて、仏企業連合がファイナンス手法を模索している。

 あるプラントメーカー幹部は、「30年ぶりの原発の置き換え需要は確実にある。短期的には逆風が吹いているが、中長期的にリスクのある市場ではない」と言い切るが、事態が長期化するならば、海外戦略の見直しを迫られるだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子) 

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