エネルギー動乱Photo by Masataka Tsuchimoto

激動の世界情勢の中でエネルギー政策とビジネスの潮目が変わりつつある。日本のエネルギー政策はどうあるべきか、企業戦略の方向性はどうなるのか。長期連載『エネルギー動乱』内の特集「脱・脱炭素の試練」の本稿では、リアリティーの高いエネルギー経済政策を提言している慶應義塾大学産業研究所所長の野村浩二教授へのインタビュー前編をお届けする。(聞き手/アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)

エネルギー消費の内外価格差
日欧は米国の2.3~2.6倍にも

――パリ協定採択から10年の間、先進国を中心に低炭素から脱炭素へと地球温暖化対策が加速したものの政策強度の差異からエネルギー消費の内外価格差(ダイヤモンド編集部注:国内価格と海外価格の格差)が拡大し、現在危機的な状況だと指摘されています。

 エネルギー消費における内外価格差は、産業競争力維持の重要な指標であり、日本政府もGX2040ビジョンでその重要性を強調しています。2010年代後半以降、脱炭素政策の国際的な非対称性が価格差拡大を招いていることから、この実態を2カ月程度の遅延で機動的に把握するためECM(エネルギーコスト・モニタリング)を開発してきました。

 内外価格差分析では、エネルギー価格の名目的な指標に加え、生産価格差で調整した実質指標(Real PLI)が不可欠です。Real PLIが大きくなると産業構造や効率改善投資に過剰な負担が生じますが、日本・欧州では21年以降、米国とのReal PLIが2.3~2.6倍にも達しました。同時に、石炭・電力価格上昇を政策的に抑制してきた中国との格差も10~20%拡大しています。

 この背景には各国の政策強度の差異があります。中国は家計負担を拡大できず、製造業を支えEV(電気自動車)普及を優先するためにも、電力価格抑制を継続しています。一方、韓国は21年後半に価格統制の限界を迎えました。日欧の米中との内外価格差の拡大は産業空洞化リスクを高めています。今後の政策設計には、米国とのReal PLIをコロナ前の水準(1.8倍ほど)に戻す視点が求められ、国際競争条件の非対称性を是正する戦略策定が急務です。

――内外価格差拡大が及ぼす日本経済への影響、また価格差解消に向けて日本に求められている対応についてのお考えは?