「モノが運べなくなる事態」の現実味
トラックドライバー不足が進んでいる。
景気低迷による荷動きの減少で、足元のモノの流れは一見スムーズに動いているように見える。だが、物量があと数パーセントでも増えれば、ドライバー不足やトラック不足は一気に顕在化することになるだろう。
ある識者はドライバー不足の現状を「コップの水の表面張力のようなものだ」と例える。いまはコップの縁スレスレで危うくバランスを保っているが、そこにあと一滴、二滴垂らせば水はコップからあふれ出す。そうなれば、2年前の消費増税前のように再び「モノを運べない事態」が現実となる可能性は高い。
経済は「モノづくり」「モノ売り」「モノ運び」「金融」という4つの基本機能で成り立っている。その一角が崩れてボトルネックになることは、日本の産業界にとっても大きな損失となるはずだ。
いま国内物流の大動脈を担う大型幹線ドライバーの平均年齢は50歳をゆうに超えている。各産業で若年労働力というパイの奪い合いが続く中、10年後の物流が滞りなく動いていくと楽観視できる要素はほとんどない。
産業界・企業経営者たちは、物流力を湯水のように使えた時代からパラダイムが大きく変わったことを改めて認識すべきだろう。
そうした危機感もあり、国土交通省では昨年「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」を立ち上げた。メーカーや小売りなどの荷主企業との連携・協力を通じて、ドライバー不足の原因ともなっている長時間労働の短縮などを実現していこうという試みだ。労働行政をつかさどる厚生労働省との共催であることからも、その意欲のほどがうかがえる。
具体的には、長時間労働の温床ともなっている荷主の集荷先・納品先での手待ち時間をなくすことでドライバーの就労環境を改善していくことを目指している。物流センターや倉庫の前で納品待ちのトラックが列をなしている光景をよく目にするが、実態として1~2時間の“待ち”などザラである。このムダな時間をなくすことができれば、トラックの稼働効率が上がり、ドライバーの労働時間を短縮することができる。
ただ、実現のためには荷主側の協力が不可欠だ。このため協議会では、47都道府県で荷主とトラック運送事業者が連携したパイロット事業をスタートさせ、ベストプラクティスの横展開を図っていく。
ドライバー不足を解消していくためには、労働環境の改善に加えて、給与などの待遇を変えていくことで"魅力ある産業"にしていくことも重要だ。このため協議会では、給与アップの原資となるトラック運賃・料金のあり方も大きなテーマとして位置付けている。