であれば、通信事業者の多くがそうしているように、設備投資をすればよかったのだが、そうしてこなかった。また、ソフトバンクは、04年に光回線を敷設し始めたこともあるが、米国で裁判になるなどしてから、いつの間にか計画を中断した。その後、08年には、NTT東日本に対して、光回線の設備売却を打診する。その話が断られるや、NTT東日本の代理店となって光回線を販売するという“ウルトラC”に打って出た。

 そのソフトバンクが、「光の道」構想に際して、「21世紀のインフラをつくろう」(孫社長)と業界に呼びかけても、ほとんど聞く耳を持たれないのは、当たり前である。一般受けする力強いビジョンの裏側には、「光の道」構想の実現を急ぐ“理由”が隠されているからだ。

 皮肉なことだが、米アップルのiPhoneが日本の市場でブレークしたことにより、急激に通信トラフィックが増えているのだ。たとえば、今年の7月にソフトバンクが総務省に提出した資料に書かれているように、「(データ通信のトラフィックが)2012年7月に4倍、2015年3月には9倍に増える」と自ら申告しているほどである。

 将来的には、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で動画を楽しむユーザーが増すことを考えれば、高速大容量のデータ通信の需要が高まるのはソフトバンクに限った話ではない。

 だが、ドコモやKDDIのように光回線に投資してこなかったソフトバンクは、自ら膨大なデータ通信を必要とするiPhoneやiPadを販売していながら、それらの“受け皿”となる設備が負担増に持ちこたえられなくなっているという大きな矛盾を抱えている。

 もちろん、すでにソフトバンクは、今年の3月に「電波改善宣言」をして設備増強に乗り出したが、思うように進んでいない。さらに、総務省の審議会の分析では、次世代通信の3.9世代になると、データ通信の洪水状態は市場全体で「2017年には、07年の約200倍のトラフィック増になる」とされている。つまり、デバイスの性能が上がるほど、設備負担が増す時代は目前に来ているのである。

 そのような状況で、増え続けるトラフィックを逃すための方策が、ソフトバンクが実現を急ぐ「光の道」構想でもあるのだ。いずれ設備が持たなくなるので、NTTのインフラ部門を切り離して公社化し、負担を肩代わりさせる。そうすれば、自ら投資せずに済む――。

 孫社長が巧妙なのは、自らの弱点をまったく出さず、「天下国家のため」という“大義名分”を掲げることである。だが、インターネットやツイッター上で、一般ユーザーがiPhoneの電波状態の悪さ(つながりにくさ)について発言し始めているように、事を急いだ戦術上のミスが露呈してきた。

 今後、「光の道」構想は、12月中旬には総務省内に政策プラットフォームが立ち上がり、来年1月には次期通常国会に新法案として提出される。この構想の大元は、民主党が政権を取る前に、ソフトバンクが持ち込んだ「“光の国ジパング”構想」(新ニューディール政策)であることを考えれば、原口一博総務大臣の時代に“国策”に化けたのは大成功だった。

 だが、ソフトバンクが主張する「光の道」構想は、通信業界関係者を説得できなかった“荒っぽい仮説”に過ぎない。それが、政治主導で、強引に進められている。この先、どれだけ善意の支持者を集めるか未知数だが、再度、論拠を詰めて、関係者の説得からやり直したほうが、実現の可能性は増すと思われる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)