ソフトバンクの孫正義社長は、演説用の台を持参していた。
11月30日、総務省8階にある大会議室で、約1年間を費やして議論されてきた「光の道」構想の「取りまとめ案」が公表された。この構想は、2015年頃をメドに、すべての世帯に光回線をはじめとしたブロードバンド回線網を敷設しようというものだ。
一般席で議論を傍聴していた孫社長は、会議が終わってから報道陣を前にして、用意してきた演説台の上で、「ソフトバンクの提案は、『実現性が乏しい』として、選択肢から削除された。これには怒りを覚える」と熱弁を振るった。
その内容は、あらためて「光の道」構想は今年の6月に日本の新成長戦略として閣議決定された政府が掲げる成長戦略構想であることを強調しながら、NTT解体論を引き合いに出し、これまでと同様に「リスクを取って事を成す」ことの重要性を繰り返した。
そして、すでに総務省や有識者会議の説得に失敗してきたこともあり、戦いの場を国会での論戦に持ち込む意思を表明した。その布石として、5大全国紙と地方紙に「『光の道』はAかBか。」という意見広告を出し、テレビにも出演して直接大衆に訴えかける作戦に出ている。最終的には、民主党議員を巻き込んで、一気に世論を味方に付けて、議員立法に持ち込む“流れ”を起こしたいようだ。
だが、今やほとんどソフトバンクの“社業”と化した「光の道」構想の訴求には、本質的な問題が見落とされている。それは、「なぜ、ソフトバンクの提案は、通信業界関係者から支持されていないのか?」という点だ。なぜ、孫社長の熱っぽい語りかけは、関係者の胸に響かないのだろうか。
それは、過去のソフトバンクが、できるだけインフラに投資しないで切り抜けてきた“やり方”が、裏目に出ているからである。
たとえば、ソフトバンクは、06年に英ボーダフォンの設備が劣悪だったことを知りながら買収したにもかかわらず、「NTTドコモやKDDIのように電波効率のよい800メガヘルツの電波が割り当てられていないので、彼らと対等に戦うことができない」という我田引水の主張を繰り返している。