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佐高 信の「一人一話」

健在なり!佐藤愛子の“怒り節”

佐高 信 [評論家]
【第56回】 2016年10月10日
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 『九十歳。何がめでたい』(小学館)という佐藤愛子の本が売れているらしい。

 1923(大正12)年の関東大震災の年に生まれた佐藤は今年93歳。同じ年の作家に池波正太郎、遠藤周作、そして司馬遼太郎がいるが、いずれもすでに亡くなっている。

 いまなお元気なこの愛子センセイと私が対談したのは、『サンサーラ』という雑誌の1996年10月号でだった。ちょうど20年前だが、それより20年ほど前の経済誌の編集者時代、私は出張校正に江戸川橋の印刷所に行き、ゲラが出て来るまでの間、近くの喫茶店で、「non-no」連載の佐藤の「娘と私の部屋」を読むのを楽しみにしていた。若い同僚に冷やかされながらである。

“ソクラテスの妻”に納得

 そう告白すると、佐藤は「幅の広い方でいらっしゃいますね」と笑ったので、私はこう続けた。「読んでいて『なるほど』と思ったのは、悪妻の代名詞でもある“ソクラテスの妻”についてなんです。『世に“ソクラテスの妻”は多けれど、げに、ソクラテスのなきをいかんせん』とお書きになっていた。それは『もっともな話だな』と(笑)。ときどきその話を使わせてもらっています。私の“怒り”とか“辛口”と言われる部分には“怒りの愛子さん”の影響があるんです」「そうですか。うれしいわ(笑)」という答えを得て、私は彼女の『ソクラテスの妻』という作品に話を移した。

 彼女がそれを書いたのは1963年だが、そのころの男には、いくらか“ソクラテス”はいたという。当時、佐藤は「男は本質的にロマンティストで女はリアリストである。本質が全然違っていて理解し合えないものだ」と思っていた。佐藤の夫は“駄目ロマンティスト”で借金をつくり、家計とかを顧みない。

 「女房として私はリアリズムで生きなければならないけれども、彼は彼の持っている理想だけしか考えないので」夫婦喧嘩の絶え間がなかった。それで佐藤は、これは男と女の本質的な差でどうしようもない、と達観し、書くことで借金を返そうとする。

 それを振り返りながら、「いまは多くの男もリアリストになりましたね」と言った。ため息まじりにである。

妻から見れば夏目漱石は悪夫

 「“ソクラテスの妻”と“ソクラテス”の関係」ということで言えば、夏目漱石の鏡子夫人も悪妻だといわれる。

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佐高 信 [評論家]

さたか・まこと 1945年山形県酒田市生まれ。評論家、『週刊金曜日』編集委員。高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家に。「社畜」という言葉で日本の企業社会の病理を露わにし、会社・経営者批評で一つの分野を築く。経済評論にとどまらず、憲法、教育など現代日本のについて辛口の評論活動を続ける。著書に『保守の知恵』(岸井成格さんとの共著、毎日新聞社)、『飲水思源 メディアの仕掛人、徳間康快』(金曜日)など。


佐高 信の「一人一話」

歴史は人によってつくられる。ときに説明しがたい人間模様、ふとした人の心の機微が歴史を変える。経済、政治、法律、教育、文化と幅広い分野にわたって、評論活動を続けてきた佐高 信氏が、その交遊録から、歴史を彩った人々の知られざる一面に光をあてる。

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