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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

日露首脳会談が「負け組同士の歩み寄り」になる懸念

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第142回】 2016年10月11日
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 今年12月15日に、安倍晋三首相の地元である山口県長門市で日露首脳会談が行われることになった。首相は「私の地元である長門市において、ゆっくりと静かな雰囲気の中で平和条約を加速させていく、そういう会談にしていきたいと思っている」と述べ、ロシアとの関係を「本気」で進展させる決意のようだ。当然、首脳会談は「北方領土問題」の解決に向けて動き出すかが焦点となる。

「前のめり」な経済協力と
「不透明」な領土問題

 「北方領土問題」については、さまざまな論者が、「1956年の『日ソ共同宣言』に基づく歯舞群島と色丹島の返還の実行は、それほどハードルが高くない」と予想している。両国の議会で批准されているので国際法的拘束力があるし、ロシア国内で「平和友好条約締結問題」(「北方領土問題」とは呼ばれていない)は、日露間の重要問題として広く認識されている。ロシア国内で、二島返還の反対論は起きないという見通しがある(北野幸伯『北方領土「2島先行返還」は日本にとって損か得か?』)。二島返還による「平和友好条約」調印は、日本がクリミアを含むロシアの現行国境を承認することを意味し、ロシアに大きなメリットがあるとの指摘もある(佐藤優『北方領土に本気で取り組み―安倍首相 ウラジオストク日露首脳会談』)。

 一方、択捉・国後の残り二島の返還については、困難が予想されている。日本は「継続協議」としたいが、ロシアは択捉、国後はロシア領で最終決着したい。ロシアは、「北方領土問題」ばかり持ち出す日本にうんざりしてきた(前連載第18回)。二島返還の日露平和友好条約調印で、本当に領土問題を終わりにしたいのだ。

 安倍政権は、今年5月の首脳会談で、ウラジーミル・プーチン大統領に対して「8項目の経済協力分野」を提案している。この提案は「絵に描いた餅」になるという懐疑的な見方があるが、筆者はかなり具体的な提案だと思う。この連載で紹介した、ロシア・サハリン州の長期経済成長戦略「発展戦略2025」と内容的に一致する部分が多い(第90回)。ロシア側のニーズを事前に掴んで打ち出したものと考えられるからだ。

 また、安倍首相が、ロシア経済分野協力担当相を新設し、世耕弘成経済産業相に兼務させて、9月のウラジオストックでの日露首脳会談に同行させたことも、経済協力への本気度の高さを示している。既に経済協力の具体案として、「日本シベリア鉄道を延伸し、サハリンから北海道までをつなぐ大陸横断鉄道の建設案」も浮上しているのだ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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