ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
【第22回】 2016年10月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

世界は「力への意志のせめぎ合い」で満ちている【『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』試読版 第16回】

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてお休みの土曜日、またまたやってきたニーチェは、「せめぎあう力への意志」について話しはじめるのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第16回めです。

世の中には“力への意志”が絶えず拮抗しており、
つねにせめぎ合っているのだ

 「そうだ。世の中には“力への意志”が絶えず拮抗しており、つねにせめぎ合っているのだ。
 どういうことかというと、手入れをされていない池を想像してみてくれ。
 手入れのされていない池には、藻が繁殖していくよな。藻は、誰に遠慮することもなく、どんどん繁殖していく。
 生物は生に向かっていく力を、最大限に発揮するという本能が備わっているのだ。より強い生き物であろうとする意志が備わっているものなのだ。
 これが“力への意志”だ。自分が持つパワーを最大限に出して生に向かっていくこと、いまよりもっと強くなっていこうとすることが“力への意志”である」

 「そっか、なんとなくはわかるかな」

 「誰しもが、“いまよりもっと強くなりたい”という意志を持っているのだ。
 そしてこの強さというのは、“俺は、百獣の王を目指す!”といった武井壮的な肉体の強さだけをさすのではない。立場や権力、名誉や金など、自分の権威に関わるものも含まれている」

 「自分がより優位になるものみたいな感じかな」

 「そうだ。そしてこの話にはまだ続きがある。さきほど“力への意志”が絶えずせめぎ合っていると言ったのを覚えているか?
 その説明をいまから行おう。
 さきほどの手入れされていない池の話を思い出してくれ。藻はパワーをフルに発揮し、池を埋め尽くすほどになったとしよう。そんな池に、藻を食べる魚を投入すると、どうなると思う?」

 「うーん、魚に食べられて、藻の量が減るんじゃないかな」

 「そうだ。魚が藻を食べ、藻の量が減るだろう。では、藻は全滅すると思うか?」

 「魚の数にもよると思うなあ。大量に入れたら全滅するかもしれないけど、そんな大量に入れなければ大丈夫なんじゃないかな」

 「そうだな、魚は藻を食べるが、あるところでバランスがとれて落ち着くだろう。
 これは、藻が持つ“力への意志”と魚が持つ“力への意志”がせめぎ合った結果、あるところで落ち着くのだ。
 これが力への意志がつねにせめぎ合っているということだ」

 「それは、権力争いみたいなもの?」

 「そうだ。パワーとパワーがぶつかり合った結果、あるところで収束するのだ。この“力への意志”は生物に限ったものではない。
 例えば、三国志のような国家のせめぎ合い。肝機能とアルコールなども、力への意志のせめぎ合いがあるといえるだろう。ウイルスと免疫力の関係などもそうだろうな」

 「肝機能が持つパワーとアルコールは、肝機能パワーが強ければアルコールに強くて、肝機能パワーが弱ければアルコールパワーに負けてお酒に飲まれちゃうってことかな」

 「そうだな。なので肝機能パワーを高めるために、ヘパリーゼやウコンの力をドーピングしているのだな、新橋あたりで飲んだくれているサラリーマンは……。
 そして、この“力への意志”だが、世界はこのような力への意志のせめぎ合いで満ちているのだ。なにかトラブルが起こったり、なにか大きな変化があったとしても、結局は落ち着くところに落ち着く、といった経験はアリサにもあるのではないだろうか?何かが起こったり、衝突したとしても、最終的には落ち着くところに落ち着くのは、力への意志によるものなのだ」

 丸太町通を河原町通の交差点まで歩くと、喫茶店や飲食店がいくつか立ち並び、町並みも賑わいを見せてきた。

 通い慣れた道ではあるが、ここに立ち並ぶお店一つひとつも、さまざまな力への意志の拮抗があった末に、ここにこうして存在しているのだろうか。

 そう考えると、見慣れた町並みさえも、意味深なものに思えてきた。

(つづく)

原田まりる(はらだ・まりる)
作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター
1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある

スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会います。哲学のことを何も知らないアリサでしたが、その日をさかいに不思議なことが起こり始めます。キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガーなど、哲学の偉人たちが続々と現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていきます。本連載では、話題の小説の中身を試読版としてご紹介します。

 

「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」

⇒バックナンバー一覧