横浜のバーから紫煙が消えていく――。今年4月、神奈川県で全国初の受動喫煙防止条例が施行された。これは、不特定または多数の人が出入りする公共施設での受動喫煙(非喫煙者が喫煙者の吐く煙や、タバコから出る煙を吸い込むこと)を防止するためのルールを定めた、罰則付きの条例だ。
映画館や劇場などは禁煙、飲食店やホテル、カラオケボックスなどは禁煙か分煙(仕切りや排気設備の設置など、厳しい基準を伴う完全分煙)にすることが義務付けられた。
こうしたなか、喫煙者も多く来店し、特に影響が大きいと思われた横浜の「ホテルバー」。彼らの対応や売り上げへの影響は、どうなったのだろうか?
煙草や葉巻を愉しむ「シガーバー」としても名が通っていた、パンパシフィック横浜ベイホテル東急内の「バー ジャックス」も4月から禁煙となり、愛煙家に少なからずショックを与えた。ボトルをキープしている愛煙家からは「残念」との声が上がり、導入直後は客数も減ったという。
しかし、その後は持ち直し、ここ数ヵ月は前年と変わらない売り上げとなっているようだ。「禁煙だからということで、逆に喫煙しない新しいお客様が来店されているのでは」と、同ホテルのマーケティング部は見ている。
これを機に、新規顧客の獲得に力を入れるところもある。禁煙となったヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルのミュージックラウンジ「スターボ」では、女性限定のシャンパン飲み放題企画を、昨秋から今春にかけて実施した。期間中は、以前であれば見なかった女性同士の客が多数来店したという。
「女性客のうれしい点は、その後も男性客を引っ張って再来店するなど、リピーターになってくれること。禁煙をきっかけにお客様の裾野が広がった」(同ホテル広報部)。
同じく禁煙とした新横浜プリンスホテルの「トップオブヨコハマ」も、女性を対象に約50種類のカクテル飲み放題プランを提供したり、ホテル内レストランの「女子会プラン」利用後の二次会で使った場合には席料無料でドライフルーツの盛り合わせを付けるなど、あの手この手で誘客する。
一方で、条例では、調理場以外の床面積が100㎡(約60畳)以下の飲食店は規制が「努力義務」となり、罰則が適用されない。そのため、広さが100㎡以下のバーでは引き続き喫煙可とする店もある。
横浜駅西口にある横浜ベイシェラトンホテル&タワーズの「ベイ・ウエスト」では、一度は今年9月からの禁煙導入を決めたが、床面積を測り直したところ、99.8㎡であることがわかり、導入を撤回。17時からのバータイムは喫煙可とした。
横浜エクセルホテル東急の「ウエストエンド」も、「辛うじて㎡数をクリアした」(同ホテルマーケティング部)という理由で喫煙可だ。ただし、店内の排気設備を強化するなど配慮もした。マーケティング部の担当者は、「ホテル周辺の横浜駅前の飲食店は、床面積が小さくても禁煙にする店が目立ち始めている。路上喫煙が禁止されているので、吸えるところはなくなりつつある」と話す。
街が禁煙化に傾倒するなか、公共施設の代表格であるホテルにあるバーが「ギリギリ対象面積以下であり、努力義務で罰則が適応されないから喫煙可」という理屈をいつまでも通せるかは、疑問が残るところだ。
むしろ、お酒好きの嫌煙家(筆者のその1人)にとって禁煙バーは魅力的であり、新たな需要を掘り起こすチャンスにもなる。今後、女性をはじめ新たな顧客を開拓していくのか、あるいは愛煙家の砦を守っていくのか。厚労省が受動喫煙防止対策に力を入れるなか、同様の問題を抱える可能性がある全国のバーが、その動向に熱い視線を注いでいる。
(大来 俊)