「人が足りない!」はこれからも続く

これまでは、それでなんとかなってきたかもしれませんが、近年は事情が大きく変わってきています。なかでも看過できないのは、我が国が抱える最大の社会課題である人手不足です。
いま、どこの企業に伺っても、「人が足りない!!」「人が採れない!!」という悲痛な声が聞こえてきます。

人が足りない→慌てて採用→育成しない→すぐ辞める→また足りない…

このバッドスパイラルを経験したことがある人、あるいは、いままさにそれに苦しんでいる人がほとんどではないかと思います。

じつは私自身、これを痛感しています。東京大学で私が統括している研究部門でも、多くのスタッフを募集しているのですが、ここ数年、新たに人材を採用するのは本当に大変です。なかなか優秀な人が集まらず、何度も募集を行ったりすることもあります。
といっても、私の研究部門が抱えるスタッフは十数名で、新規募集の数も決して多くありません。数名を採用するだけでもこれですから、現場で奮闘する店長さんやマネジャーさんたちの苦労たるや、どれほどのものだろうかと頭が下がる思いです。

この「人手不足」が深刻なのは、程度の差こそあれ、今後も中長期的に続く可能性が非常に高いからです。

本書執筆時点の足元では、東京オリンピックを見越した出店ラッシュや外国人観光客の増加もあって、サービス・小売・建設などを中心にアルバイト・パート人材の特需が続いています。ひどいケースだと、あまりにも人が足りないために、営業時間を短縮したり閉店したりせざるを得ない職場すら出ていると聞きます。
さらに、少子高齢化・人口減少の日本では、長期的にも労働力人口が減っていくのは確実です。ということは、この状態が「続く」だけでなく、ますます「深刻化していく」可能性も考えたほうがいいでしょう。

「アルバイトの育成」に
向き合う時代が来ている

そう考えると、アルバイト・パートに頼っている企業・職場は、もはや「辞めたら採ればいい」「育てるのは無駄」などとは言っていられません。むしろ、優秀なアルバイト・パート人材を確保し、時間やコストをかけて育成する覚悟のある人、また、そのように発想を転換できる企業が、この「人手不足の時代」を生き残っていくのではないでしょうか?

そこで今回、どうすればアルバイト・パートを効率よく採用できるか、どうすれば一人前の人材に育てられるのか、そして、どうすれば店長やマネジャーがいなくても回る職場をつくれるのかを徹底的に掘り下げた『アルバイト・パート[採用・育成]入門』という本を刊行しました。これは文字どおり「アルバイト・パートの採用・育成」にフォーカスした、我が国で初の入門書です。

もちろん「店長さんのための書籍」は、これまでもたくさん出版されています。しかし、そのほとんどは、非常に優秀な成果を上げた店長やチェーン店経営者が、個人の持論や経験に基づいて書き上げたものでした。「現場の知恵」が貴重な学習リソース(資源)になることは、私も否定しません。
とはいえ、その事例の特殊性ゆえに、別業界・別業種の店長さんにはなかなか実践しづらいものだったり、あまり役に立たなかったりすることも多かったのではないでしょうか。

一方で、この本には、私の専門である「人を育てる科学」の知見と、現場で働く人たちへの「社会科学的な調査」の分析結果の2つを盛り込みました。店長個人の勘・経験や精神論に頼ることなく、どのような環境でもある程度は通用する一般的な原理・原則を導き出してありますので、より幅広いジャンルの店長・マネジャーにすぐ役立てていただけるはずです。