読者が一緒に割引率を決める「ブックーポン」。第一弾対象書籍はApp Storeにて販売された。

「電子書籍元年」と言われた2010年。アップルの「iPhone」「iPad」を皮切りに、年末にはシャープの「GALAPAGOS」(ガラパゴス)、ソニーの「Reader」、NTTドコモの「GALAXY Tab」などが相次いで発売され、国内市場向け電子書籍端末は出揃った感がある。コンテンツに関しても、各社が配信サービスの拡充にしのぎを削っている状況だ。

 そんななか、一風変わった電子書籍販売サイトがオープンした。それが図書印刷株式会社が手がける「ブックーポン」である。

 同サイトのユニークな点は、電子書籍の割引額をユーザーと共に決定する「バイラルディスカウント」という手法を採っていることである。ツイッターと連動し、ユーザーからの応援ツイートが一定数を超える度に、それに応じて割引額も増えていくのだ。

 電子書籍がこれだけ話題になっているにもかかわらず、実際に購入したことがあるというユーザーは、意外に少ない。そこで「多くのユーザーに電子書籍と出合い、触れるきっかけを提供すること」を大きな目的として開設されたのが、「ブックーポン」なのである。

 第一弾の割引対象とされたのは、iPhone、あるいはiPad版の3タイトル。応援ツイートの募集期間は半月あまりだったが、その間のアクセス数は約11万PVに達したという。結果的に、3冊合計で952の応援ツイートが集まり、それぞれ11%から25%の割引率で販売されることになった(2010年12月17日~28日までの期間限定)。

 一見するとこの仕組みは、最近流行りの「クーポン共同購入サイト」を連想させる。だが「ブックーポン」の場合、応援ツイートを投稿しても、電子書籍の購入義務は生じない。また、投稿しなかったユーザーでも、割引価格で電子書籍を購入することができる。

 電子書籍の販売サイトは百花繚乱の様相を呈しているが、「ブックーポン」の場合、たんなる値引きサイトではなく、ユーザーとの一体感で盛り上がっていくワクワク感がとても心地いい。従来、書籍の販売価格にユーザーの意志が反映されることは、ほとんどあり得なかった。それだけに、応援ツイートの中には「こんな宣伝方法もいいね」「ぜひ、流行って欲しい」といった好意的な評価が多数寄せられたという。

 出版社や印刷会社と読者との関係は、一方通行の場合が多い。それが「電子書籍や出版に関わる人、ITに興味がある方など、様々な立場の方が、お互いに生の声を交わしあう場になりました」と、図書印刷株式会社クリエイティブ・センター ソリューション企画部の加藤達也氏はいう。

 価格の決定に読者が関わることができることを証明した「ブックーポン」は、既存の出版流通のあり方に、まだまだ多くの変化の余地があることを示唆している。書籍と読者との関係性を考えるうえで、新たな1ページを開いたと言えそうだ。

(中島 駆)