かつて特許訴訟は時間がかかるなどの理由で敬遠されていたが、効果が大きいため年々件数が増加
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 液晶技術で世界最先端を走るシャープ。近く、そのシャープが、世界第3位のパネルメーカー台湾・友達光電(AUO)を、液晶ディスプレイに関する特許侵害で提訴する準備をしていることが、本誌の調べでわかった(シャープは世界第5位)。

 特許侵害の内容は、液晶ディスプレイの明るさや視野角の拡大などに関するものと見られ、これらの特許の多くはシャープが押さえている。

 もっともシャープは、AUOとは2005年から特許を相互利用するクロスライセンス契約を結んでおり、技術的に優位に立つシャープが、ライセンス収入を数十億円規模で得ている模様だ。

 それが一転して提訴に至った理由は、AUOが前回締結したライセンス契約の更新に応じないためだ。ならば、とシャープは提訴に踏み切り、ライセンス契約の交渉を優位に進める考えだ。液晶テレビの販売価格が急速に下落するなか、「AUOにしても、唯々諾々と契約更新を受け入れるわけにはいかないのだろう。拒否する構えを見せることで、ライセンス料の値下げ交渉に持ち込みたいのではないか」(関係者)と見る。

 シャープが強気なのは、10年2月に韓サムスン電子に対する特許侵害に関する訴訟で勝訴したためだ。ちなみにサムスンは、世界最大の液晶パネルメーカーであり、そのパネル生産規模はシャープの約3倍の規模を誇る。

 サムスンとは、07年8月に米テキサス州東部地裁に提訴したのをはじめ、21件にも上る訴訟を繰り返してきた。だが、09年6月、11月と相次いで米国際貿易委員会(ITC)が、サムスンがシャープの特許を侵害したことを認める決定を下した。これは、「世界最大級のテレビ市場である北米で、液晶テレビを販売できなくなることを意味する」(中田行彦・立命館アジア太平洋大学アジア太平洋イノベーション・マネジメント・センター長)。液晶テレビメーカーにとっては絶対に受け入れられない事態である。そこですぐさまサムスンはシャープと和解し、ライセンス料を支払うことを余儀なくされたと見られる。

 これまで液晶パネル産業は、シャープや富士通など日本の電機メーカーが先頭に立ち、技術開発を進めてきた。だが、1990年代半ば頃から、韓国や台湾メーカーが相次いで参入してきた際に、「シャープら日本の電機メーカーが持つ液晶関連の特許を好き放題に使われてきた」(関係者)という。

 その反省に加え、サムスンとの訴訟のように、販売差し止めに持ち込める可能性があることから、特許訴訟などの知財戦略は、重要な経営戦略となった。液晶ディスプレイで圧倒的な技術力を誇るシャープの知財戦略は、今後もますます拡大する。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義、藤田章夫)

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