さまざまながんで効果が期待されるものの高額な薬価でやり玉に挙げられていたがん治療薬「オプジーボ」の薬価引き下げ議論は、来年2月から50%引き下げることで決着した。ただ、これはルール外にルール外を上乗せした“対症療法”。画期的な薬が生まれるたびに高額薬剤問題は再燃する恐れがある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)
「これじゃあ、まるで茶番じゃないか」。11月16日に開催された厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)。事務局である厚労省ががん新薬である「オプジーボ」の公的薬価を50%引き下げる根拠をとうとうと説明する中、傍聴席で製薬業界関係者はため息をつき、独りごちた。
オプジーボは治療対象となるがん患者の範囲が広がったことから、薬価の高さが問題視されるようになった。10月5日の中医協では「市場拡大再算定の特例」を準用する案が了承された。特例とは当初の予想よりも売れ過ぎた薬の価格を引き下げる制度を、巨額品目に拡大適用するもので、オプジーボは最大25%引き下げで決着がついたと多くの人が思っていた。一部の中医協委員が「私だけ勘違いしていたのか」と厚労省に面と向かって皮肉ったほどだ。
“勘違い”の原因は特例にあった。年間販売額1000億~1500億円で予想の1.5倍以上売れたケースでは最大25%、同1500億円超で1.3倍以上のケースでは最大50%引き下げるとしており、製造販売元である小野薬品工業の予想販売額は今年度1260億円で前者に該当するとみられていた。
ところが、10月6日の参院予算委員会で共産党の小池晃書記局長がさらなる引き下げを求め、他の議員や経済界からも注文が相次ぎ、官邸が動いた。これを受けた厚労省が「特例の50%引き下げ条件に適用させるために『結論ありき』で持ち出してきた」と業界関係者が訝るのが、11月16日の中医協で示された販売額推計計算式だ。
それによると、小野薬品公表の1260億円は「仕切価格(メーカーが医薬品卸に売る価格)」ベースで、流通経費、消費税などを勘案して国が定めた公定価格ベースでは1516億円になるという。
緊急的対応で実際の薬価調査をしていないため、これまでの平均値などから机上で導き出したもので、厚労省は「明確な根拠はないが『保守的に厳しく』見積もった」などと、苦しい説明に追われた。薬価改定は通常2年に1度であり、次回は2018年度。期中改定が最初の「ルール外」なら、計算式は「ルール外の上のルール外」だ。
計算式に対し、中医協委員からは「仮定の上に仮定を重ねており不安」「基礎額の微妙なずれで1500億円というボーダーを切る計算だ」など疑問の声が相次いだ。
厚労省が示した、小野薬品からの不服申し立て期限は11月22日。引き下げの告示は祝日を挟んだ2日後の24日で、「不服は出てこない」と言わんばかりの日程だ。ある製薬会社幹部は「株価に影響するので事前に小野薬品と折り合いがついていてもおかしくないが、それにしても強引」とあきれる。
以上が「茶番」の内幕だ。