東芝が原子力発電事業で新たな火種を抱え込んだ。2015年末に米ウエスチングハウス(WH)が買収した米原発建設会社の資産価値が想定を大幅に下回り、数千億円の損失を計上する事態に陥っている。わずか1年で巨額損失に至る危機を招いたのはなぜか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 村井令二)
「たった1年で、なぜこれだけの大きな損失に膨れ上がるのか。資産査定が甘いと言わざるを得ない」
暮れも押し迫った2016年12月27日夜に東芝の綱川智社長が開いた緊急会見で、17年3月期に数千億円規模の損失を計上する可能性があると発表した翌日、東芝の説明を受けた主力取引銀行の関係者は一様に不信感を募らせた。
損失発生の可能性が出ているのは、東芝子会社の米ウエスチングハウス(WH)が15年12月31日に買収を完了した米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)で、WHが米国で建設中の原発4基の土木・建設工事を手掛ける会社だ。
原発建設のパートナーの米エンジニアリング会社シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)から買収したが、S&Wののれん代(買収価格と実際の企業価値との差額)が、当初想定した105億円を大きく上回って数千億円規模に上り、減損損失の恐れが生じている。
原子炉メーカーは通常、原発の土木・建設は社外の工事会社に発注する。WHが工事会社そのものを買収したのは、東日本大震災やテロ対策で安全規制が厳しくなり、米国の原発4基の建設が遅れに遅れていることが背景にある。
工事の遅れは建設費用の増加となって跳ね返るが、その追加負担をめぐって電力会社との間で巨額の訴訟が発生し、東芝グループと、パートナーのCB&Iの間でも衝突が繰り返されていた。
これを解決する手段として提案されたのが、CB&Iの子会社のS&Wを東芝グループが丸ごと買い取るプランだった。建設の遅れに頭を悩ませていた東芝・WHはこの提案に飛び付き、15年10月28日に買収合意して電力会社との訴訟は和解。これにより、もともと原発事業から距離を置き始めていたCB&Iはリスクを切り離した一方で、東芝は建設コストの増加リスクをグループ内に抱え込むことになった。