最近、TVコマーシャルなどで頻繁にその名を目にするようになった「RENOSY」。賃貸マンション・アパートや、戸建て賃貸、オフィスビルなどの投資用不動産をオンラインで売買することができ、取得した物件の管理もできるAI不動産投資サービスだ。
2016年のサービス開始から10年。会員数は約60万人に達し、不動産投資における売り上げ・買い取り実績共に全国トップクラスを誇る。
その「RENOSY」を運営するGA technologiesを13年3月に創業し、代表取締役社長執行役員CEOを務めるのが樋口龍氏である。
「不動産投資をNISAやiDeCoと並ぶ身近な個人資産の運用手段にしたいと考えてサービスを開始しました。まだまだ道半ばですが、数年内には『不動産による資産形成を、あたりまえにする。』というブランドビジョンを具現化したいと思っています」

今や不動産テック業界の先頭を走る樋口氏だが、最初から起業を目指していたわけではない。小学1年生のときにサッカーを始め、中学でJリーグ・FC東京のジュニアユースチームに所属。サッカー強豪の帝京高校に進学し、卒業後はJリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉の育成選手になった。
「少年時代から24歳までは、とにかくサッカー漬けの毎日。世界的なプロサッカー選手になることが唯一の夢だったんです」と、樋口氏は振り返る。
不動産営業の経験が
マーケットインの発想を生む
ところが、24歳のときに足首に大ケガを負い、プロ選手としての活躍が不可能に。絶望のあまり1週間も泣き続けたが、たまたま読んだある本が勇気づけてくれたという。
「ソフトバンクグループの孫正義社長の生きざまを描いた、『志高く 孫正義正伝』という本です。それまでまったく知らなかったテクノロジーの世界に触れ、『ITの力ってすごい』と大きな可能性を感じるとともに、『ビジネスでも世界を目指せるんだ』と知って勇気が湧きました」
これが、後の起業の原点となるが、24歳までサッカーだけしかしてこなかった若者が、いきなり会社を起こせるわけもない。そこで、ひとまず社会人経験を積むため、ある不動産会社に営業職として就職する。
「不動産営業を選んだのは、一番難しく、すぐに力が付きそうな仕事だと思ったからです。学歴も問われない実力の世界でしたし。とにかく早く力を養って起業したかったですからね」
5年間の社会人経験を積み、現在のGA technologiesを創業したのが13年3月。30歳のときだ。
「創業とともに、今日まで変わらない『世界を前進させる』というパーパス、『テクノロジー×イノベーションで、驚きと感動を生み続ける』というミッションと、『世界のトップ企業を創る』というビジョンを掲げました。でも、具体的に何をすればいいのかが分からなかった。ひとまず、当時はやっていたクロステック(既存産業とテクノロジーの掛け合わせ)の潮流に乗って、業界知識があった不動産テック関連のサービスを三つ立ち上げました」
ところが、その三つが次々と失敗。
何が良くなかったのか? とあれこれ原因を考え、樋口氏は「そもそもの出発点が間違っていた」ことに気付く。
「開発したのは、いずれも『こんなサービスがあったら面白いだろう』と自分たちが思ったものばかりで、プロダクトアウト(※1)の域を脱していなかったのです。ある時、米国のシリコンバレーで起業家育成プログラムなどを運営しているポール・グレアムが『新規事業はマーケットイン(※2)で考えるべき』だと発言していることを知り、ああそうだったと目を開かされました」
※1 企業が持つ独自の技術やアイデアを起点に、作りたい製品を開発する考え方
※2 顧客の要望や市場のニーズを起点に、売れる製品を開発する考え方
そこで頭に浮かんだのが、不動産営業時代の経験である。
かつて勤めていた不動産会社は、個人や法人の顧客に投資用不動産を販売する会社だった。その営業担当として顧客と接するうちに、「日本の不動産投資には、いろいろ非合理なことが多い」と感じたのを思い出したのだ。
「投資用不動産会社は、賃貸マンションは扱っているけれどアパートは扱っていない。販売はするけれど買い取りはしない。あるいは、投資用物件はあるけれど実需の物件はない、といったように専門特化され過ぎていて、お客さまが不便を感じておられたのです」
そこで、あらゆる種類の物件を買ったり、売ったりできて、保有する物件のポートフォリオや家賃の入金状況なども一つのポータルで管理できるオンラインサービスを提供できないか、と考えた。これが「RENOSY」の開発に至った経緯だ。
「不動産投資の利便性を高めたい」というマーケットインの発想でリリースした「RENOSY」は、それまでになかったサービスであることから多くの投資家に受け入れられ、大ヒットした。
デジタルとの親和性が高い
三つの領域で成長を目指す
サービス開始から2年後の18年7月。急成長を遂げたGA technologiesは、東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場。そのわずか4カ月後には、同社と並んで日本の不動産テック業界をけん引していたイタンジを完全子会社化し、不動産管理会社・賃貸仲介会社向けSaaSの「ITANDI」をサービスラインアップに加える。
「ITANDI」は、紙の書類による入居申し込みや契約、更新といったやりとりを、電子申請によって効率化できるオンラインサービスだ。「RENOSY」は主に個人の投資家を対象とするBtoCサービスだが、「ITANDI」はBtoBに特化したサービスである。
なぜ、事業ポートフォリオの中核にこの二つのサービスを据えているのか? 樋口氏はその理由について、「いずれのターゲットもデジタルとの親和性が非常に高く、既存の競合が比較的少ないからです」と説明する。
不動産業には、主に開発、流通、管理、賃貸、投資の五つの領域があるが、開発と流通は大手デベロッパーやそのグループ会社などの競合がひしめいている。一方、管理、賃貸、投資は競合が少ないブルーオーシャンであり、加えてそのサービスや業務には、デジタル化によって改善できる余地が大きい。そこで、この三つの領域に絞り込んでサービスの拡充を図り、成長を追求しようとしているのだ。
樋口氏は「『世界を前進させる』というパーパスに沿って、国内だけでなく、海外でもこの3領域で事業を拡大しています。積極的なM&Aなどによって、パーパスの実現に向けた歩みを加速させていきたい。その結果として、『世界のトップ企業を創る』というビジョンも達成できるはずです」と語る。
GA technologiesの成長ストーリーは、これからが本番だ。
Jリーグ・川崎フロンターレのユニフォームが飾られている同社オフィスの一枚。「RENOSY」は川崎フロンターレのオフィシャルトップパートナー。樋口氏のサッカーへの思いは今なお健在
株式会社GA technologies
〒106-6290 東京都港区六本木3-2-1 住友不動産六本木グランドタワー40階
TEL:03-6230-9180
https://www.ga-tech.co.jp/
