日産自動車が知的財産戦略を加速させている。
自動車メーカーといえば、技術を囲い込むのが常套手段。中国では日本車のデザインからなにから模倣の格好の標的であり、訴訟にまで発展したケースも多い。独自技術を易々とは開示できないのだ。
仮に他社の開発した技術を利用したい場合でも、知的財産を扱う部署同士が連絡を取り合い、話し合って解決する。「先方からアプローチがあって初めて動く守りの姿勢。こちらから、この技術を使いませんかと提案する攻めの姿勢はない」(大手自動車メーカー幹部)というのが業界標準だ。
ところが、日産は2010年4月、専門の部署を設立。他社に技術を提供し始めている。
燃費を5~10%改善できる「エコペダル」をミクニに。また、四つのカメラを使って、クルマを真上から見下ろしたようにカーナビの画面に表示できる「アラウンドビューモニター」の技術をクラリオンへとすでに提供している。
専用のホームページまで用意し、「鋼板折り曲げ加工装置」といった技術名が並ぶ。問い合わせフォームも備えている。
自動車業界では、軽自動車分野での協業、エンジンの提供など大手、中堅、国をまたいだ連携が進んでいる。ただし、それは大きな分野における経営判断。日産のように単品の技術をオープンに販売する戦略は他社にはない。
競争力低下も懸念されるが、日産の幹部は「クルマの技術は積み重ね。1回だけコピーすることは可能でも、継続性を持つには技術的な蓄積が欠かせない」と明かす。
日産は、電気自動車向け電池を他の自動車メーカーに提供していく戦略を明言している。これも他の自動車メーカーにはない戦略だ。
かつて、同社は「技術の日産」をもって任じていたが、いまなおその戦略は際立っているのだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)