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宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説

英国のEU完全撤退表明でポンドが上がる理由

宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト]
【第54回】 2017年2月1日
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 英国メイ首相は「欧州連合(EU)単一市場から完全に撤退(Brexit)」することを表明した。EU単一市場域内では、人やモノ、サービスの自由な移動や取引が認められる。3月にもEU離脱交渉が始まる。

 しかし、この表明の後、英ポンドは大幅高になった。この動きには違和感を持った人も多いのではないか。そうでなくても、英国の金融市場は意外な出来事が多い。昨年来のEU離脱の動きで英経済は悪化し、たとえば英国株式は下落すると考える人が多かった。

 それに反して英株式は上昇し、史上最高値を更新した。英経済の主力産業の一つは「観光」であり、訪問客が増えたからである。トルコの政情不安も影響している可能性が高い。トルコはテロが横行しており、観光客が激減している。その観光客の一部が英国に向かうのだ。さらに、先進国であり、通貨安により「輸出」が拡大したからである(日本は海外に産業を出し過ぎて、すでに円安による輸出拡大・景気刺激効果は10年前の5分の1程度に落ちている)。

 今回の表明に際しては、離脱交渉について上下両院(貴族院と庶民院)の承認を求めるとした。ここが英ポンド大幅高のポイントである。そもそもは与党・保守党のキャメロン元首相をはじめ、最大野党・労働党の多くの議員、それに、第3党のスコットランド民族党の大半の議員がEU残留を支持していた。要はそもそも離脱反対派が多いのだ。上下両院の承認は得られにくく、少なくとも難航が予想される。このことはつまり、実は英国は離脱しない、少なくとも「強硬な離脱(Hard Brexit)」はないとの観測を呼んで、英ポンドが大幅上昇したのである。

 この上下院の承認条件は、英最高裁判所が、欧州連合(EU)離脱手続きの開始には「議会の承認」が必要との判断を下したことが影響を与えている。最高裁の考え方のポイントは、英国の政治制度は間接選挙制と定められており、直接的な国民投票は意味がない、ということだ。国民投票は、キャメロン元首相の独自の考えで行われたことであった。

 ということで、英国のEU離脱についてはまだまだ目が離せない。今年は、英国も欧州も米国も、このような「政治リスク」が市場を動かす主因になりそうだ。

(経済学博士・エコノミスト 宿輪純一)

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宿輪純一[経済学博士・エコノミスト]

しゅくわ・じゅんいち
 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」(下記ご参照)を主催し、4月で11周年、開催は220回を超え、会員は“1万2000人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から『通貨経済学入門(第2版)』、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『金融が支える日本経済』(共著)、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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