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日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?
【第3回】 2017年2月3日
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村上尚己

「トランプ円高論」はマネーの基本をわかっていない!!
円の価値は「○○」が決めている

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トランプ米大統領が日本の為替政策を「円安誘導」と批判したことが話題になった。メディアに踊らされないためには、どこまでが本当のリスクで、どこにチャンスが隠れているのかを冷静に見抜く態度が必要だ。

そんななか、「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏による注目の最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』がいよいよ本日発売となる。村上氏は「トランプ円高論」をどのように見ているのか?同書から一部をご紹介しよう。

「トランプ円高論」は
マネーの基本をわかっていない

1月31日、トランプ米大統領が日本の為替政策について「円安誘導だ」と批判的に語ったことがニュースになっている。こういうときの日本の経済メディアの過剰反応ぶりには本当に驚かされるが、前回の連載でも見たとおり、国内メディアは以前からずっと「トランプが円高を招く」という主張を既定路線としている。つまり、実を言うと、これはいまにはじまったことではないのだ。これらのニュースに惑わされないためにも、今回は以下の通説について検討してみることにしよう。

[通説]「リスクオフで米ドル離れ。安全通貨・円に買いが殺到」
【真相】否。マネーの価値は「量」で決まる。基本踏まえぬ珍説。

そもそも、「トランプリスクが円高を招く」という主張が幅広く受け入れられていたのはなぜだろうか?メディアの偏った報道にも責任はあるが、この主張に「わかりやすいストーリー」が付随しているという点も見逃せないだろう。

その代表的なものが、多くの為替アナリストらが頻繁に語る「リスクオフによって安全通貨・円が買われる」というロジックである。何をしでかすかわからない「異端児トランプ」が大統領になれば、米ドルや米国株の先行きは不透明になり、より安全な資産にマネーが向かいやすい状況(リスクオフ)が生まれる。米ドルが売られ、「安全通貨」である日本円に買いが集まるため、よりいっそうの円高・ドル安が進む―これが円高論者たちの基本シナリオだったようだ。

しかしこの見通しは大きく外れ、現実のマーケットでは真逆の事態、すなわち大幅な円安・ドル高がはじまった。

前回の連載で述べたとおり、私は以前から「彼らのシナリオは根本的な部分で誤っている」と考えてきた。さらに、円高リスクへの警戒を煽る彼らの声が聞こえているうちは、むしろ投資チャンスでさえあるとも主張してきた。そこには、もちろん一定の根拠がある。まずはその背景について解説しよう。

※(参考)第2回
なぜ「史上最悪の米大統領」なのに世界の株価が上がるのか?

といっても、決して複雑な金融理論の話ではないので、ご安心いただきたい。それどころか、為替のシンプルな仕組みを押さえれば十分に理解できることだ。日本のマーケット予想では、経済学の基本的な枠組みがひどく軽視される傾向があるが、私が米大統領選後のドル高・円安を予想できたのは、この「基本」をもとに金融市場の本質を捉えていたからに過ぎない。

円の価値は「円の量」が決めている

米ドルや日本円といった通貨の価値はどうやって決まるのだろうか?まずはこれをごくシンプルに解説したい。

私たち日本人は、日頃の経済取引で「円」という通貨を使っている。ガソリンや牛丼には一定の価格がついており、その対価として円を支払っている。この円の「価値」は、私たちが購入するモノやサービスの「価格」と表裏一体だ。ガソリンや牛丼の価格が上昇すれば、それは円の価値が相対的に低下した(円安になった)ことを意味するというわけだ。

では、個別のモノやサービスの価格はどのように決まるか?これは一概には説明できない。企業がとる価格戦略とか、原材料費の高騰といったさまざまな要因で、それぞれのモノの価格は変動するからだ。

一方、日本のモノ・サービス全体の価格(これを物価という)はというと、少し事情が違ってくる。物価は市中に供給された通貨の「量」(マネタリーベースマネーサプライなどで表される)とのバランスで決まってくるのである。

すなわち、円の量が少ないと、日本の物価は下がる。日本国内に存在するモノの量が同じなのに、お金の量だけが半分になれば、1円の価値は2倍に上がる。100円で買えていたモノが50円で買える状態、これをデフレーションデフレ)と呼ぶ。

逆に、円の量が多ければ多いほど、日本の物価は上がる。モノの量は同じままで、お金の量だけが2倍になれば、1円の価値は「半分」に下がる。100円で買えていたモノを買うのに、200円が必要になるわけである。この状態をインフレーションインフレ)と呼ぶ。

物価の度合いは消費者物価指数CPI: Consumer Price Index)などで表現され、その変動率をインフレ率と呼ぶ。インフレ率がプラス1%であればインフレであり、物価が上がっている/通貨価値が下がっているということになる。インフレ率がマイナス1%であればデフレであり、物価が下がっている/通貨価値が上がっているというわけだ。

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村上尚己(むらかみ・なおき)

アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト
1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。
第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(原田泰・片岡剛士・吉松崇[編著]、中央経済社)がある。また、東洋経済オンラインにて「インフレが日本を救う」を連載中。


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