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森達也 リアル共同幻想論

これまで僕たちはハンセン病患者に
何をしてきたのか

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第42回】 2011年4月4日
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「撮ってくれよ。もうすぐみんな死んじゃうから」

 この2月9日、僕は京都にいた。浄土真宗大谷派が主宰するシンポジウムに出席するためだ。

 シンポジウムが終わってからの打ち上げは、まずは会場近くの大きなレストランで行われた。二次会はレストランからタクシーで10分ほど走った祇園の小さなカラオケスナックだった。一次会から流れてきた20名ほどの顔ぶれは、ほとんどが浄土真宗大谷派の僧侶たちだ。でも彼らとは明らかに雰囲気が違う二人の老人がいた。一人はカウンターに座り、もう一人である白髪の男性は、テーブルの僕の隣に腰を下ろした。

 「あんたは森さんだね。今日の話はよかったよ」

 「ありがとうございます。お名前お聞きしていいですか」

 「石井だよ。ストーンの石に井戸の井」

 そう答える石井さんに、テーブルの向かい側でウイスキーの水割りを作っていた年配の女性が、「石井さん、いくつになるんだっけ?」と声をかける。

 「いくつだっけ。もう80はずいぶん前に過ぎたよ」

 言ってから石井さんはガハハと笑う。動きも俊敏だし声にも張りがある。とても80歳過ぎには見えない。女性が言った。

 「森さん、石井という名前は偽名なのよ」

 「うん。本名は忘れちゃったからな」

 そう言ってまた笑う石井さんの膝の上に置かれている左手に、僕はちらりと視線を送る。まるで握りしめた拳のようだけれど、でも正確には拳ではない。なぜなら石井さんの左手には、握りしめる指がない。

 「珍しいかい」

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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