実店舗とオンラインを融合させるオムニチャネルは、どの程度の効果があるのか。本記事が挙げる米国の匿名1社の例では、「複数チャネルを利用する顧客は大きな価値をもたらす」という明白な結果が示された。


 従来型の小売業者は苦境にある。競争の激化にもかかわらず、小売店舗に足を運ぶ買い物客は年々減り続けている。ある小売業界のカンファレンスでは、業界のベテラン(アパレル企業トゥルーレリジョンの経営幹部)が同業者らに対し、「客足が大きく落ち込んでいない、という人は誰かいますか」と、暗い問いかけをしたほどだ。

 一方、オンラインでの小売りは活況を呈している。2015年、米国におけるデジタルチャネルを通じた小売りの売上高(モバイル機器での売上げを含む)は、23%も増加。これらの利益の多くはオンライン小売業者の懐に入った。アマゾンはその最たる受益者であり、オンライン小売り全体の売上げの26%を占めた。

 さらに、アマゾンが食料品やファッションなど新たな分野へと積極的に進出し続けるにつれ、その脅威は、従来型小売業者にとってかつてなく大きくなっている。同社の人工知能、アレクサに聞いてみればそれがわかるだろう。

●解決策はオムニチャネル戦略

 従来型の小売業者はこのような厳しい状況の下、オムニチャネル小売りに将来を託している。オムニチャネル戦略とは、次のような考えに基づくものだ。実店舗とさまざまなデジタルチャネルでシームレスな買い物体験を提供することで、同業他社との差別化を図る。さらに、店舗という資産の活用により、オンラインのみの小売業者を上回る競争優位性を得る。

 店舗を使う従来型の客にデジタルチャネルを提供し、複数チャネルでの買い物体験を融合させる。これにはコストがかかるが、非常に大きな経済価値が得られる、というのがこの戦略の前提である。小売業者は、オムニチャネル戦略をみずからの切り札と頼っているのだ。

 だが、これは本当だろうか。オムニチャネルの買い物客のほうが、小売業者により多くの価値をもたらすのだろうか。

 我々はこの疑問に答えるために、全米で数百の小売店舗を営む大手企業と協働した。2015年6月から2016年8月までの14ヵ月間に買い物をした4万6000人超の顧客について、その購買動向を調査。カスタマージャーニーのあらゆる側面について質問し、どのチャネルを利用したか、その理由は何かを重点的に探った。そして、買い物体験の評価も求めた。

 すると、調査参加者のうち、オンラインのみの顧客はわずか7%、店舗のみの顧客は20%だった。残る73%という大多数は、購入までのジャーニーで複数のチャネルを利用していた。ここでは彼らを「オムニチャネル顧客」と呼ぶ。