「幸せ食堂」繁盛記
【第四五回】 2017年3月24日 野地秩嘉

大岡山「メニューが200種類の蕎麦屋」は木曜が狙い目!

やぶはやぶでも、大岡山のやぶ

「やぶそば」といえば、かんだ(やぶそば)、並木(藪蕎麦)、池之端(藪蕎麦 ※現在は休業)の御三家が知られる。しかし、大岡山のやぶそばを忘れてはいけない。1953年、同店は東急大井町線の大岡山駅近くにオープンした。いまも1日に200人の客がやってくる人気店である。午前11時から午後10時まで、途切れることなく営業しており、店内ではいつも誰かが食事をしている。

 びっくりするのはメニューの種類が多いこと。もりそば、かけそば、丼物といった町のそば屋がやっている定番はもちろん、刺身、焼き魚といった割烹のメニュー、ラーメン、タンメン、餃子、ワンタンといった中華食堂のそれ、ハンバーグや焼き肉もある。それらのおかずを組み合わせたメニューもカウントすると、その数、ざっと200種類とか。

 1966年生まれの店主、熊澤猛司氏は言う。

「昭和50年代くらいからメニューが増えました。常連のお客さんが『定食もやってくれないか』、『ハンバーグも食べたい』と言ってきて…。リクエストに応えているうちにだんだん多くなってきたんです」

 いくつも並ぶメニューのなかで圧巻はミックス定食(750円から800円)だろう。コロッケ、メンチ、とんかつなど9種類あるが、たとえば鶏唐揚げミックスを頼むとする。どーんと鶏の唐揚げが4つついてくる。他にコロッケ、しょうが焼き、ウインナ、スパゲティが載っている。小鉢と味噌汁もある。キャベツは大盛りだ。

 これを食べて「まだ足りない」と言ってはいけない。中年以上の人ならふたり分だろう。

 近所に東工大があるせいか、大学生は苦もなくミックス定食を平らげている。

 ミックス定食と並んで大食漢と大学生に支持されているのがモツ煮定食と豚角煮定食。どちらも800円。1日に3回、仕込むというから、若者はよほどモツ煮を食いまくっていると思われる。

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野地秩嘉 

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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