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野口悠紀雄 大震災後の日本経済
【第1回】 2011年5月12日
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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1.今後の経済制約は、供給面にある

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本サイトの人気コラム「未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか」で喫緊の経済テーマを論じている野口教授が、最新刊『大震災後の日本経済』(ダイヤモンド社)を上梓した。この連載では、「第1章 復興にかかる厳しい供給制約」の全文を6回にわたって掲載する。

 東日本大震災によってもたらされた経済問題の本質は、供給側に強い制約が生じたことだ。

 日本は、長年、需要不足に苦しんできた。世界経済危機で輸出が急減して、需要不足がさらに深刻になっていた。それが、今回の大災害で一転し、供給側で深刻な制約が生じたのだ。この転換は、地震発生後わずか1時間程度の間に生じた誠に唐突なものであるため、さまざまな点でこれまでとは逆の対応が必要になるにもかかわらず、いまだに頭を切り替えられない人が多い。この章では、マクロ経済の需給バランスの観点から、問題をどう捉えるべきかを論じる。

需要不足から供給制約へ

 大震災が経済に与えた(あるいは、今後与える)影響は、つぎの2つである。

第1は、震災によって生産施設や社会資本、そして住宅が破壊され損傷したこと。
第2は、復興のために今後巨額の投資が必要になることである。

 前者は供給面の制約であり、後者は需要の増加である。

 仮に供給面の制約が一時的なものであれば、生産は短期的には落ち込むが、その後の復興投資需要によって回復し、増加する。しかし、供給面の制約が長期に続くものであれば、投資需要が増えても生産が回復しない。投資需要の増加は、クラウディングアウトによる金利上昇と円高、あるいは物価上昇をもたらすことになる(「クラウディングアウト」についての説明は、本節最後の「クラウディングアウトとは」を参照)。

 この点は、過去に生じた経済ショックと異なるものだ(詳しくは、本章の5を参照)。

 まず、阪神・淡路大震災(以下、阪神大震災)は、供給側にさほど大きな問題をもたらさなかった。

 数年前の世界経済危機で日本が受けた打撃は、「輸出の激減」という需要面のものであった。これに対して必要な経済政策は、需要の喚起であり、(少なくとも直接的には)、誰にも損失を与えずに実行できるものだ。日本では、エコカー購入支援などの需要喚起策がとられた。これは、特定の業界を救済したという公平上の問題を含んではいたが、経済全体としての負担増にはならなかった。本当は、建設国債を増発して、社会資本整備のための公共事業を増やすべきだった。私は、「戦後初めてケインズ政策が必要な事態が生じた」と考え、公共事業の大規模な拡大を主張した(*1)

 ところが、いま必要なのは逆のことだ。誤解を恐れずに言えば、「景気を冷やす」ことである。「気分が落ち込んでいるから、せめて消費を増やして景気を良くしよう」という意見があるのだが、そうはいかない。これまでは需要制約が問題だったので、どうしてもそうした発想になってしまうのだろう。しかし、日本の経済条件は、東日本大震災で一変したのである。

(*1)野口悠紀雄、『未曾有の経済危機 克服の処方箋』(第6章の3)、ダイヤモンド社、2009年。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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