中国が爆買いする“意外な作物”とは? 日本の技術で生産量100倍に!
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

中国が爆買いする“意外な作物”とは? 日本の技術で生産量100倍に!Photo: Adobe Stock

中国が欲しがる意外な作物とは?

 2023年統計において、貿易相手国の上位が「1位中国、2位アメリカ合衆国、3位アルゼンチン」となっている国はどこでしょうか。

 正解はブラジルです。ブラジルは輸出入ともに最大相手国が中国で、近年中国との関係が緊密化しています。

 ブラジルの対中輸出品目は大豆と鉄鉱石が約7割を占めています。「世界の工場」となっている中国に対して、ブラジルが原材料供給国となっているのです。こういった構図は、他には鉄鉱石と石炭を多く輸出しているオーストラリアが知られています。

 中国に最も多く大豆を輸出している国はブラジルです。かつてはアメリカ合衆国からの輸入が最大でしたが、中国が供給地の分散化を図り、ブラジルからの輸入を増やしました。

 大豆の原産地は中国なので、ブラジルが自国で生産するためには、気候条件に合わせて品種改良を施す必要があります。

 アメリカ合衆国で品種改良に成功した大豆は、気候条件の近いブラジル南部に持ち込まれ、生産が始まりました。

日本の技術で生産量100倍に!

 ブラジルにおいて大豆生産は、小麦の裏作物としての生産が期待されます。しかし、栽培に最適な気候条件を持つ南部地域は大都市が集まり、それほど広大な農耕地をとれず、生産拡大には新たな農耕地を確保する必要がありました。

 ブラジル政府は国家プロジェクトとして、1979年よりカンポ・セラードと呼ばれるサバナ地帯の開発に着手します。サバナ地帯は、熱帯土壌で強酸性を示し、アルミニウムを大量に含むものであったため、土地改良から始めます。また品種改良や栽培技術の改良など海外からの農業協力が進められました。その際に農業協力をしたのが日本だったのです。

 このプロジェクトは「ブラジル版 緑の革命」といわれ、不毛地であったカンポ・セラードは世界的な農業地帯へと変貌を遂げ、2001年まで続けられました。カンポ・セラードでの大豆生産は、1975年比較で、2010年にはおよそ100倍にまで増大します。

 また2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟したことにより、農産物市場の自由化が進められ、穀物メジャー資本が参入したことも、中国の大豆輸入を増やす要因となりました。

 中国の大豆需要を満たしている国の1つがブラジルだったのです。一方で、急激な生産拡大は伐採による森林消失を招き、結果、先住民の土地の所有権が奪われるなど、負の側面があることも忘れてはいけません。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)