黒田東彦が見たトランプ大統領の実像、日本は「非常識」なトランプ政策にどう対応すべきかPhoto by Masato Kato

世界が巨大な変化の時期を迎えようとしている。米国ではドナルド・トランプ大統領が復権し、欧州と中東の戦火は収まらない。従来の常識が通用しない混沌とする世界と経済をどう読み解き、未来に備えればいいのか。日本が進むべき道はどこか。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの新連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の初回テーマは、トランプ大統領とその政策。黒田氏が見たトランプ大統領の実像と、「非常識」なトランプ政策に日本はどう対応すべきかを探る。

ダボス会議のパーティーで見たトランプ大統領の本音
「米国も5~6%成長」と言及、常識に挑戦する政治家

 ドナルド・トランプ米大統領が2025年1月に就任し、矢継ぎ早に安全保障や経済政策について、これまでの米国の政策をひっくり返すような政策を発表して、世界中を戦後に例を見ないような混乱に陥れている。

 私は、18年1月ではないかと思うが、1期目のトランプ大統領がダボス会議で演説するのを聞いたことがある。

 コングレスホールという巨大な会議場で演説したトランプ大統領は、懐からペーパーを出して読み上げていた。そして、「アメリカ・ファーストと言ったが、どこの国の指導者も自国ファーストであろう。北米自由貿易協定は維持する」と述べたので、聴衆は皆、安心したのである。

 さて、夕刻のパーティーの時間となり、招かれていた私も参加した。顔触れを見ると、先進国の参加者だけが呼ばれていたようであった。その席でトランプ大統領は、懐から出したペーパーを床に捨て、中国やメキシコなどの新興国について、悪口雑言を述べた。これが国務省のチェックを経ていない本音だと思った。

 しかし、驚いたのは、その後、「米国政府の経済チームの連中は、米国経済は2~3%程度しか成長できないというが、中国は7%成長しており、米国も5~6%成長できないことがあろうか」とトランプ大統領が述べたことである。

 これは明らかに経済学の「常識」に反するが、この常識を立証することはそう簡単ではない。トランプ大統領は、常識にチャレンジする政治家だと思った。

 なお、トランプ大統領が17年11月に来日した折には、宮中晩さん会で天皇陛下とともにあいさつするのを聞いたことがあるが、もとより、国務省のチェック済みの友好的な言葉だけだったように記憶している。