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「原因と結果」の経済学
【第10回】 2017年3月31日
著者・コラム紹介バックナンバー
中室牧子、津川友介

勉強ができる友人と付き合うことになっても
自分の子どもの学力は上がらない?

受験シーズンも終わり、自分の子どもの進路が決まった人も多いだろう。多くの親が自分の子どもを少しでも偏差値が高い学校に入れさせたいと考える背景には、「学力が高い友人と一緒に生活を送ることで、いい影響を受けて、願わくばそれによって自分の子どもの学力も上がってほしい」という願望があるのではないか。

しかし、『「原因と結果」の経済学』の著者である中室牧子氏と津川友介氏によれば、「学力の高い友人と付き合っても自分の学力は上がらない」という。どういうことか、詳細を聞いた。

学力の高い友人と付き合うと
自分の子どもの学力も自然に上がる?

(写真はイメージです)

 受験の時期が近づいてくると、わが子には少しでも偏差値の高い学校に滑り込んでほしい、と願う保護者は多いはずだ。

 偏差値の高い学校には、学力の高い生徒たちが集まっているだろうから、自分の子どもにとっては少々実力不相応な学校でも、学力の高い友人たちとともに学校生活を送れば、子どもの学力も自然と上がっていくだろう、などと考えているのではなかろうか。

 実際に、「生徒の学力が高い」と言われる学校周辺の住宅価格や地価は高くなる傾向にあるという。

 経済学では、友人らから受ける影響のことを「ピア効果」と呼ぶ。保護者は、このピア効果が、自分の子どもの学力にプラスの影響があると考えているというわけだ。

 しかし、これは慎重に検討する必要がある。「学力の高い友人と付き合うから自分の学力が高くなる」(因果関係)のか、「学力が高い子ほど学力の高い友人と付き合っている」(相関関係)だけなのか、どちらだろうか。

因果関係……2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じる関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が因果関係の場合、学力が高い友人と付き合うと自分の学力が上がる。
相関関係……一見すると片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にはない関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が相関関係にすぎない場合、学力が高い友人と付き合っても自分の学力が上がることはない。

 この問題に取り組んだのが、マサチューセッツ工科大学のヨシュア・アングリストらである。

 ボストンとニューヨークには、大学受験を目指す生徒のための特別な公立高校がそれぞれ3校の計6校ある。ただし、この学校には日本のように入試があり、合格しなければ入学を許可されない。いわば「エリート高校」だ。

 このエリート高校の入試に落ちてしまった生徒たちは、ほかの公立高校に通うことになる。もちろん、入試で選抜が行われるエリート高校に比べると、ほかの公立高校の生徒の平均的な学力は圧倒的に低くなる。

 アングリストらは、入試の合格ラインぎりぎりのところで合格したエリート高校の生徒たち(「介入群」と呼ぶ)と、ぎりぎりで落ちてほかの高校に行くことを余儀なくされた生徒たち(「対照群」と呼ぶ)は「比較可能」であると考えた。

 介入群の生徒と対照群の生徒は、自分の意思でエリート高校を受験したものの、自分の意思で合否を決めたわけではない。また、合格ラインぎりぎりの生徒なので、学力はほとんど同じだと考えられる。

 そうなると、「その後入学する高校の友人の学力」以外に、「自分の学力」に影響を与えそうな要素が似たもの同士になり、両者は比較可能になるのである。

 この状況で、介入群と対照群の生徒の学力を比較する。そうすれば、学力の高い友人とともに高校生活を送ることが、生徒本人の学力に与える因果効果が明らかになる。

学力の高い友人に囲まれても
自分の学力は上がらない

 アングリストらが示した結果によると、ボストンとニューヨークの学校で、その後の学力に差は見られなかった

 「ピア効果」が存在するのかどうかについてはいまだ諸説あるものの、アングリストらと同様に、学力の高い友人と付き合う因果効果に迫った研究では、同様の結論にいたっているものも多い。

 たとえば、全米経済研究所(NBER)のジェフリー・クリングらの研究では、アメリカ政府が実施している「チャンスのあるところへの引っ越し」という大規模なランダム化比較試験(第3回を参照)に注目した。

 これは、子どものいる貧困層の家庭を対象に抽選をし、当選すると貧困率の低い地域に引っ越せるクーポンを受け取ることができるという政策のことだ。

 当選した家族の子どもたちは、引っ越し先で自分たちよりも学力の高い友人たちと学校生活を送ることになるのだが、抽選に外れてもとの地域で生活していた子どもたちの学力と比較しても、統計的に有意な差がなかったことが報告されている(「統計的に有意な差がなかった」とは、その差は偶然の範囲で説明できる差であるということである)。

 残念ながら、多くの保護者の期待を裏切って、勉強のできる友人に囲まれて高校生活を送っても、自分の子どもの学力にはほとんど影響がないということのようだ。自分の努力を棚に上げて、周囲の友人に過剰な期待をしてはならないということなのかもしれない。

参考文献
Abdulkadirŏglu, A., Angrist, J. and Pathak, P. (2014) The Elite Illusion: Achievement Effects at Boston and New York Exam Schools, Econometrica, 82 (1), 137-196.
Kling, J. R., Liebman, J. B., and Katz, L. F. (2007) Experimental Analysis of Neighborhood Effects, Econometrica, 75 (1), 83-119.
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中室牧子(なかむろ・まきこ)

慶應義塾大学 総合政策学部 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行、東北大学を経て現職。コロンビア大学公共政策大学院にてMPA(公共政策学修士号)、コロンビア大学で教育経済学のPh.D.取得。専門は教育経済学。著書にビジネス書大賞2016準大賞を受賞し、発行部数30万部を突破した『「学力」の経済学 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

津川友介(つがわ・ゆうすけ)

ハーバード公衆衛生大学院 リサーチアソシエイト
東北大学医学部卒業後、聖路加国際病院、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(ハーバード大学医学部付属病院)、世界銀行を経て現職。ハーバード公衆衛生大学院にてMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学 」で医療に関するエビデンスを発信している。


「原因と結果」の経済学

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