これは経験則だが、インセンティブを上限まで上げていれば、他の乗客が降りると申し出る可能性は十分あったと思う。逆に降りるのを拒否したのは、翌日に診療を控えていた医師だった。どのような勤務事情かは現時点ではわからないが、仮にその人が開業医で、月曜日の診察だけで2000ドルの仕事が予定されていたのであれば、飛行機を降りると損害の方が大きい。なぜ中途半端な補償金に止めて逸失利益の大きい人を降ろそうとしたのか。現場のマネジャーが通常の手順を踏んでいたとは思えない。

 そして第三のミスだが、話がつかなかったため、治安当局を呼び入れた際に不適格な担当者が混じっていたことだ。治安当局はユナイテッド航空の職員ではなく、空港の警察官である。シカゴは全米有数の犯罪都市であり、当局には手荒な担当官が少なくない。

 担当官はユナイテッド航空の株価などには関心がないので、黙々と乗客を排除しようとしたようだ。目撃者によれば、3人いた保安員のうちの2人は穏やかに対応をしていたが、残る1人の職員は最初からけんか腰で、暴力的に顧客を排除した結果注意を受け、現在は休職処分を受けている。

 こうして起きた惨事により、血まみれになって通路を引きずり出されていく乗客の映像は、瞬く間にSNSを通じて世界を駆け巡った。この段階で不祥事としてアウトなのだが、ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOが第四のミスを犯す。

 従業員宛てのメールで、「従業員は規定通りの対応をした」と伝えた上で乗客が抵抗したことで問題を増幅させたと書いたのだ。従業員宛てのメールはそのまま地元メディアの知るところとなり、このことも瞬く間に世界に向けて報道された。

15万円をしぶったために
株主に与えた1100億円もの損失

 騒ぎはさらに大きくなり、全米の消費者が「ユナイテッド航空には乗りたくない」という反応を示し、ユナイテッドの株価は翌日最大で1100億円も下がった。これは株主が今回の事件で被った直接の被害額である。

 経験則で言えば、今回の被害者への賠償金も安くて数千万円、高ければ1億円前後はかかることになるだろう。売上の減少はおそらく数百億円以上の規模。株主から見れば、最初から15万円の補償金で降りてくれる人を探してくれていれば起きなかった大損害である。

 では、なぜこんなことが起きてしまうのか。これも「細部の情報はわからない段階での話」という断りをした上で、航空業界の状況からそれが起きてしまうメカニズムについて要点を挙げてみたい。

 まず現場サイドの問題だが、とにかく極限まで乗客を詰め込むことが航空産業の常態になっている。30年前なら航空機の搭乗率は70%が平均だったところが、現在はほぼどの便も満席で運行されている。