ホンダの強さの要因は、効率的な経営や北米市場での強さなどもありますが、トヨタ、日産と比較した場合に際立った違いは、世界一の規模を誇るオートバイ事業を持っていることです。リーマンショックのときも、オートバイ事業は自動車事業ほど落ち込みませんでしたし、11年3月期の営業利益でも自動車事業が2645億円なのに対し、オートバイ事業も1385億円になっています。ホンダには自動車とオートバイという2つの柱があり、これはトヨタ、日産にはないホンダの強みです。

ホンダの小型ジェット機事業への参入は、
創業者の夢か、戦略的意図か

 さてそのホンダですが、実は自動車とオートバイに続く、3つ目の柱になる事業の準備を着々と進めています。その事業は、“小型ジェット機事業”です。

 ホンダがジェット機の開発に着手したのは今から約20年も前のことなのですが、長い開発期間を経て、いよいよ来年アメリカで発売できるところまでこぎ着けました。航空機産業への進出は創業者、本田宗一郎氏の夢であったとともに、自動車メーカーの航空機製造は世界でも初の快挙。たいへん夢とロマンに満ち溢れた話です。テレビの「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿的」風にいうと「創業者の夢とロマンを乗せたジェット機が、今、飛び立つ」といったところです。でもホンダは単に創業者の夢を実現させるためだけにジェット機にチャレンジしたのでしょうか。それだけではないでしょう。やはり事業として勝算、儲かる見込みがあるから続けてきたはずです。

 ホンダのジェット機参入には、しっかりと戦略に裏打ちされた勝算があります。それを理解する手助けになるのが経営学者マイケル・ポーターの「参入障壁」の理論です。

 「参入障壁」とは、ある業界に新規参入していく際に、参入を妨げる要因のことです。業界によって新規参入しやすい業界とそうでない業界があります。

 新規参入しやすい業界は、それだけライバルの会社の数が増えますから業界内の競争は激しく、利益を上げるのは容易ではありません。逆に新規参入しにくい業界は、参入するまでは大変ですが、一旦参入してしまえばライバルが少なく、比較的安定した利益をあげることができます。ジェット機業界は「参入障壁」が高く、新規参入が難しい業界の代表例です。