
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第20回では、個人の趣味や特技をビジネスにするサービスについて解説する。
「生きる価値を再生しろ」得意なフィギュア製作を仕事に生かすには
社員に会社の運転資金800万円を持ち逃げされてしまった主人公・花岡拳。災難が続く中で、グッズ制作に関わる格闘技団体の「豪腕」が、人気女性タレントの中原綾名を起用した記者発表会を開催することを耳にする。
自らの会社に戻った花岡は、社員の1人・加藤薫が趣味でフィギュア製作をしているのを知るやいなや、「これだ…あったぞ!起死回生!一発逆転のきっかけが!」とひらめくのだった。
花岡は加藤に対して、タレント・中原の写真をもとに目視で採寸し、等身大ボディを作るように指示する。
加藤は「デフォルメしたフィギュアは作れるが、リアルな肉体をフィギュアで再現することは不可能だ」と渋る。
だが花岡は加藤に対して「生きる価値をてめえで作れねえんなら今すぐ死ね」「こいつでてめえの生きる価値を再生しろ」とすごみ、等身大ボディの作成を命じる。
令和であればコンプライアンス違反ど真ん中な言葉を飛ばす花岡だが、行く場所のなかった加藤にとっては、自分を会社員へと引き上げてくれた大の恩人。
「なんとしても完成させるんだ。社長のために…」と徹夜で作業し、翌朝には中原綾名の等身大ボディを完成させる。そのボディを見た縫製工場のリーダー・片岩八重子(ヤエコ)は、ボディに完璧にフィットするTシャツを仕上げるのだった。
ネットのおかげで個人の「趣味」や「特技」がビジネスになった

加藤の趣味であるフィギュア製作を、花岡たちは「起死回生の一手」と信じた。
このように、「趣味や特技をビジネスにつなげる」という行為は、この20年強のインターネットの発展や、そこで新たなサービスを生んできたスタートアップが支えた1つの文化とも言える。
2012年に創業したBASEとSTORESは、それぞれ個人や中小企業を対象にしたネットショップ開設サービスを展開している。もちろんそれ以前からも、ECサイトの構築サービスなどはあったが、そのほとんどが高い初期費用や運用コストを必要としており、それなりの資金力がないと、手を出すことすら難しいというのが実態だった。
2社はウェブブラウザ上の操作で完結するシステムを開発し、固定費ゼロ円からのプランを導入することで、EC、ネットショップ参入の敷居を大きく下げることに寄与した。
これらのサービスに集まるのはクリエーターだけではない。コロナ禍においては、店舗営業が限定されることになった飲食店が、自慢の料理を冷凍食品やミールキットとして販売する場としての役割も担った。
このほかにも、クリーマの「Creema」やGMOペパボの「minne」といった、クリエーターに特化したコマースサイト、またオンラインスクールのようなサービスの販売に特化した「MOSH」など個人の趣味や特技をビジネスにするためのプラットフォームはさまざまに拡大している。
無事に中原綾名にジャストフィットする「豪腕」のTシャツを作りあげた花岡たち、いよいよ起死回生のチャンスのため、記者発表会の場に潜り込む。

