必要性の高さと、需要の大きさはイコールではない。社会事業での有益なイノベーションをしっかり普及させるために必要な3つの原則とは何か。


 ほとんどの企業は、自社の製品やサービスの需要を呼び起こさなければ生き残れない。そのために、マーケティングや広告活動を行ったり、クチコミによる導入拡大を見込んで製品設計にユーザーを深く巻き込んだりする。

 これは、社会問題の解決に取り組むイノベーターにとっても同様だ。ところが、彼らは多くのビジネスリーダーとは異なり、そのイノベーションのニーズ(必要性)が非常に大きいがゆえに、需要を意識的に喚起する努力を忘れがちである。だが、たとえ最も必要とされるイノベーションでも、放っておけば自然に受け入れられるということはないのだ。

 次の例を考えてみよう。

 2015年、米国の成人の8600万人が2型糖尿病にかかるリスクを抱えていた。これは3人に1人の割合である。同時に、約1000もの非営利組織や地域組織が、薬に頼らない糖尿病予防法を提供していた。しかし、彼らの活動は宣伝やユーザーの巻き込みが十分にできていなかった。そのため、これらのプログラムは保険の適用により基本的に無料だったにもかかわらず、利用者数はわずか2万人。つまり、糖尿病予備軍の1%の1000分の1以下にとどまったのである。

 大きなニーズが、必ずしも大きな需要を意味するとは限らない。製薬会社は通常、人命を救える薬を発売する際、開発費用の2倍もの予算をマーケティングに投入する。かたや非営利組織は、一般運営資金さえしばしば不足しており、製薬会社のようにマーケティング予算を確保することは難しい。

 それでもなお、最近のブリッジスパン・グループの調査報告(本記事筆者らが寄稿)はこう指摘する。非営利組織とその資金提供者はいまこそ、市場で話題を引き起こす方法と、新しいサービス(たとえ人命の救助につながるものでも)を目立たせる必要性について、ビジネス界の知見に注意を払うべきである。

 換言すると、積極的に需要を喚起するためにはそれだけの手を尽くせということだ。

 我々が2016年に調査した非営利組織のうち、70%は最近のプログラムへの参加者数が落ち込んでおり、50%は5年前よりも参加者の確保に苦労していると回答している。あるリーダーは次のように語った。「当団体が誇りとしている(若者の職業訓練)プログラムは、規模を広げたものの、参加者が増えないのです」

 その一方で、さまざまな方法を駆使して需要の喚起――社会学者エベレット・ロジャーズが示した「イノベーションの普及」――に成功している組織もある。ロジャーズは、イノベーションがどのように、なぜ、どんなペースで広がるかを説明しようと試みた。いまでもさまざまな業態の営利企業がその理論を活用し続けている。

 非営利組織の場合、ロジャーズの研究から3つの原則を参考にできる。

●サービスやプログラムは、有効性だけでなく「普及性」を考慮に入れて設計する

●幅広い層の潜在的受益者をターゲットにするよりも、最も参加可能性の高い一部の集団に絞り込む

●営業とマーケティングの組織能力を、最初から構築して資金を投じる

 それでは、1つずつ検証してみよう。