国土交通省が平成24年(2012年)度に試験車両導入を進めている「超小型モビリティ」。軽自動車と自動二輪車の中間の規格として誕生する可能性が高い。本連載では第79回でその全体像を、第80回で愛知県豊田市の取り組みを紹介した。筆者は現在も超小型モビリティに関する取材を全国の産学官を対象に、さらには海外の事例まで広げて多角的に行っている。
そうしたなか、取材先でよく耳にする言葉がある。それは「富山がやっているように…」だ。だが、実際には富山県も富山市も国交省の超小型モビリティの実証実験には参加していない。また、経済産業省が推進する「EV・PHVタウン構想」にも富山県は参加していない。
では、「富山は何をしている」のか?
その答えは、富山市のLRT(ライトレール・トランジット/先進的な路面電車)を活用した「コンパクトシティ」施策だ。詳しくは後述するが、同市ではこれを「お団子と串」の都市構造と呼ぶ。
JR富山駅前の車道の中央部に「電停」がある。そこには古い市電と真新しい路面電車が出入りする。2009年12月23日に、富山軌道線(大学前⇔南富山駅/全長6.4km)の中で市内中心部を周回する環状線/セントラム(全長3.4km)部分をLRT専用に開設したためだ(以下、新しい路面電車をセントラムを呼ぶ)。
実際に富山のセントラムに乗ってみた。車両の製造元は、全国各地のLRTや東京の「ゆりかもめ」「日暮里・舎人ライナー」など新交通システムの製造で知られる新潟トランシス社だ。
セントラムはワンマン運転。運賃は後払いで200円均一である。
走行ルートの前半は、富山県庁や県警本部近くのビジネス街を走る。富山は戦災により戦前の街並みは消失し、戦後は防火帯を広く確保した。そのため富山市内の主要道路の幅はかなり広い。そしてセントラムは、富山城址公園に沿って走り、丸の内電停の先で左折。ここからの約940mが富山軌道線に対して延長された部分だ。
しかし実際には、1973年3月31日に廃止された西部線の一部を活用している。その後、富山城と富山国際会議場に挟まれた大手町交差点を右折。この周辺は富山市民プラザもある大手モール地域だ。
さらに、越前町交差点を左折し平和通りへ。ここは戦前から戦後にかけて富山市の中心繁華街として栄えた、総曲輪(そうがわ)地域である。ここには大和百貨店を核とした商業施設、グランドプラザ(2007年9月17日に開業)がある。
その後、セントラムは西町交差点を左折して富山軌道線に合流し、富山駅方面に向かう。その間、昔ながらの商店街と商業街が続き、各電停周辺にはカフェや美容室が立ち並ぶ。ちなみに、その多くは、閉店・閉鎖していた店舗を新たに改装したものであるようだ。