日本の少子化の現状を「危機的な状況だ」と述べる政治家に対して「危機的な状況にあるのは日本の政治だ」と斬るのは、前明石市長の泉 房穂氏だ。「明石モデル」で大胆な子育て改革を実現し、地方政治に革命を起こした泉氏によれば、政府がやるべきことはシンプルで、海外の成功事例を参考にベーシックな政策と法整備を進めることだと語る。本稿は、泉 房穂『日本が滅びる前に 明石モデルがひらく国家の未来』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

市内の小中学校で不祥事が
起きても市長は介入できない

泉房穂Photo:JIJI

 私自身、教育学部を卒業した身なので、教育には強い思いがあります。市長だった12年間を振り返ると、ある程度できたことと、あまりできなかったことがあります。後者の代表が教育です。

 市長になってみてよくわかったのは、日本の教育制度の権限と責任の所在がばらばらで、戦後から半世紀以上たった今もまったく変化していないことでした。市内の小中学校の教員の不祥事が発覚したときなどに「私に調査権限や教員に対する指導権があれば、もっとスピーディに動けるし、思い切った再発防止策も取れたのに」と痛切に思ったものです。

 現在の教育制度では、人事権は県にあります。だから、小中学校の建物は明石市立なのに働いている職員は県教委の管轄となり、教員たちが何か問題を起こしても市長は手出しできない仕組みになっています。

 つまり、現場から離れた都道府県の教育委員会が権限を持っていることで、権限と責任が二重構造になっているわけです。

 市長である12年間でもっとも心残りなのは、文部科学省と日教組が結託して治外法権をつくっているかのような昭和のままの旧態依然とした教育制度を突き崩せなかったことです。