実体を上回る巨額のプレミアム
「海外企業M&A」の危うさ

 さて、ここから「のれん代」の説明に入る。海外企業の巨額買収において、戦略上欲しい企業をM&A(吸収・合併)する際には、ほぼ必ず買収価格が高くなる。たとえば8000億円の価値の米国企業があって、それを日本企業が「買いたい」と言うと、アメリカの株主は「8000億円だったら売らないよ」と返事をする。それはそうだ。8000億円のものを8000億円で売るのであれば、売り手は自社の資産価値以上の儲けを得られないので、無理に売らなくてもいい。

 そこで、どうしてもその企業を欲しい場合、買い手はプレミアムを提示し、「では、1兆円で買います」と打診することになる。しかし、M&Aに名乗りを上げる企業が複数いて、さらに価格をつり上げられそうな状況ならば、株主はその程度のプレミアムでは売らない。最終的に「1兆2000億円なら売りますがどうですか?」という話を提示し、それに応じる買い手と合意することになる。

 買収におけるプレミアムは通常30~40%と言われているが、競争になると前述の例のように、8000億円の企業を1兆2000億円で買うといった50%のプレミアムがつく場合も少なくはない。

 さて、簡単に言えばこの差額の4000億円が「のれん代」である(厳密には「買収コスト-買収企業の純資産」)。なぜ「のれん代」と呼ぶのかというと、これは「企業のブランドに対して実体以上のお金を払った」とみなされるからだ。

「とらや」「高島屋」「なだ万」のような価値のある「のれん」が欲しければ、実体以上の価格を支払わなければならない。のれんだけでも数千億円の価値はある。それと同じ考え方が会計上の「のれん代」ということだ。

 日本の会計基準では、こののれん代は20年以内の期間で均等に償却すればよかった。この例で言えば、毎年「のれん代償却」として20分の1の200億円を均等に経費として計上する。これが日本のやり方だった。

 だから日本会計基準を採用している限りは、たとえ無理な買収をしても、毎年の決算において均等に負担が生じるだけで、サプライズで巨額な損失が発生することはなかった。

 この前提が、米国会計基準ないしは国際会計基準の導入で変わったのが、毎年のように上場企業が巨額の赤字を発表する現象が起きるようになった原因だ。これらグローバルな会計基準では、のれん代の償却を認めていないからだ。そもそも毎年の経費として認められないのだ。そうした状態で、過去に自社が買収した企業の資産価値が大きく下がった場合、問題が起きる。