「自分は偉い」と勘違いしてしまう罠

 社長の周りには多くの「罠(わな)」が潜んでいます。今回取り上げる罠は、周囲の人物が社長を陥れようと仕掛ける罠ではなく、自らがはまってしまう罠。まず最初は「部下は自分を慕っている、尊敬している」という勘違いのことです。

小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 社長が部下に何かを命じれば、即座に動いて結果を出そうとするでしょう。良い部下ほど額に汗をかくほど一生懸命動いて、良い結果を出すはずです。罠にはまった社長は、額に汗をかく部下の姿を見て、「自分の偉さ」に内心満足することでしょう。

 しかし現実は違います。

 部下が動くのは、社長という仕事上の役割を持った人が命じたためです。社長の人間的な偉さに部下がひれ伏して動いたわけではありません。尊敬して動いているわけではないのです。

 そうした話を、企業の経営者を対象にした講演会をする時、言葉だけではなかなか通じないため、私は聴衆に向かってときどき次のことをします。それは、「皆さん、右手を挙げてください」と言うのです。

 すると数百人の社長さんたちが、一部怪訝そうな表情を見せながらも右手を挙げてくれます。

「もう少し高く挙げてくれませんか」というと、疑うことなく、ピンと腕を伸ばしてくれます。

 そこで私は、前列の人に「なぜ右手を挙げたのですか?」と聞くのです。

 すると、私が右手を挙げろと言ったからそうしただけなので「変な質問をするな」と思いながらも、たいていこういう答えが返ってきます。

「それは小宮さんが右手を挙げろと言ったからです」

 そこで、私は、こんな例え話をします。