5月16日、日本を代表する大企業が集まる日本経済団体連合会(日本経団連)から、「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」という提言が発表された。
ダイバーシティとは“人材の多様性”のことで、インクルージョンは“多様性を包括する状態”を意味する。この動きは、2月7日に経営者の団体である経済同友会によって発表された「ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査結果」に続くものだ。
なぜ、日本の経済界を代表する2団体は、相次いでこうした動きに出ているのか。最も大きな理由は、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック大会を前に、この機会を“成長エンジン”にしたい経済界として、諸外国に対する政治的なスタンスを整える必要に迫られたからだ。
そのための“道具立て”として、にわかに注目されるLGBT(性的マイノリティ)の問題に目を付けたのである。LGBTは、レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と身体の性の不一致を感じている人々など)の頭文字を取った便宜的な“総称”だ。
日本経団連の提言は、LGBTに関する今日的な諸問題を幅広く扱っており、とりわけ国内で活動する大企業93社について具体的な施策を横並びで紹介している点が、一般企業の参考にはなるだろう。
今後は“SOGIハラ”?
もっとも、ようやく日本の経済界がLGBTに焦点を当て始めたといっても、社会の認知は限定的である。さらに、LGBTという言葉が広まるほど、新たに不都合な部分も露呈するようになった。
例えば、LGBTの中で男性であるがゆえに可視化されやすいゲイの存在が目立つ一方で、今も深刻な就職差別に悩むトランスジェンダーに対する理解はあまり進んでいない。加えて、LGBTには、Xジェンダー(男性でも女性でもない“第三の性”に属す人々。男女どちらにも決められない、決めたくない人々もいる)などが含まれていないという問題もある。