ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
辺境から世界を変える【取材紀行編】
【番外編】 2011年7月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

騒乱のタイと「第三の道」
――タイはなぜ、
社会企業を制度として取り込むことに成功したのか?
スニット・シュレスタ著/加藤徹生翻訳、編集

1
nextpage

  震災以後、僕(訳者)は東北にいる時間が増えた。復興に携わるためだ。
  そのなかで、日本の目指すべき社会像を改めて考えさせられることも多い。震災復興の問題、電力や原発の問題など問題は大小山積みのままだし、誰が意思決定すべきなか、どのような議論が尽くされるべきなのか、新しい社会をつくっていく担い手は誰なのか、すべてがまだ不明瞭な状態にある。制度疲労に加え、積み重なる債務によって疲弊する行政機関。そして、縮小する市場に見切りを着けざるを得ない企業。実際に復興に携わり、さまざまなプレイヤーの行動原理に触れるなか、新たなプレイヤーが台頭しなければ問題の根本的解決はありえないのだ、という思いを新たにしている。
  これだけの混乱にある日本にとって、参考になるのはタイの事例だと思う。タイではいち早く社会企業的な問題解決のあり方が模索されてきた。本稿では、タイの社会起業家の中心人物として活躍し、現首相(記事執筆時点)アピシットの参謀として活躍する起業家、スニット・シュレスタ(本連載の第3回でも登場した)の記事を翻訳し、新たな社会像を模索するタイの状況を見てみたい。
  震災後、新たな社会像を模索する日本にとって、この記事が示す隣人の先駆的な試みは貴重な学びの機会となるはずだ。

第3回「争乱のタイで見た、経済格差と可能性――「社会企業」という一筋の希望」を読む

クーデターの背景にある経済格差
富めるものだけが富み、貧しきものはさらに貧しくなるという悪循環

 タイ国内の学術研究グループによる調査によれば、国内経済の全資源の80%が、人口のたった20%によって所有されていると言われており、タイの証券取引所の時価総額における資産の大部分は、寡占的な事業を行っている50に満たない財閥によって所有されている。このダイナミズムによって、金持ちはより裕福になり、貧乏人はさらに貧しくなるといった悪循環はさらに加速され、また寡占的な政治的・経済的な階級制度は所得格差をますます悪化させ、政治家による格差の悪用を助長している。

 2010年のタイの「赤シャツ」(元首相タクシン派を支持する)による行進やデモは、タイにおいてこの数十年に行われた無数の抗議運動の中では、極めて独特のものだった[訳注1]。タイ全域の農村部から集まったこのデモの参加者の目的は、元タイ首相であるタクシン・チナワット――06年の軍事クーデターにより追放され、以後、タイの政治的対立は加速している――の帰還を求めてのことであり、タクシンの影響力を懸命に取り戻そうとするためであった。タクシン派が大量の動員を可能にした状況の背景にあるのは、根深い経済格差であり、その拡大傾向が深刻化していたからである。結果、福祉の格差、経済の格差、そして「貧困」から抜け出す機会の格差に結びついていたのだ。

[訳注1]この抗議運動は軍事衝突にまで発展したが、スニットは政治的な対立の帰結だったと強調した。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato


辺境から世界を変える【取材紀行編】

アジア各国の社会起業家、そして現地の起業家を取材し、辺境に眠る力強い可能性を描き出した『辺境から世界を変える』。
本連載では、アジアの最果てを巡る取材の中で、ターニングポイントとなった出会いや出来事を、書籍未収録のエピソードを中心に書き綴る。ラオス、カンボジア、タイ、中国、フィリピン、インド……。2年にわたる取材で、筆者、加藤氏は何を見たのか。
数億の売上の企業が、数百億の経済効果をコンスタントに出し続ける。
事業規模1000万強の小さなNGOが5年間で14万人の生活を変えた。
そんなビジネスとしてだけではなく、社会へのインパクトの両方がずば抜けた事例から、世界に広がるイノベーションの原点を見る

「辺境から世界を変える【取材紀行編】」

⇒バックナンバー一覧