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辺境から世界を変える【取材紀行編】
【第3回】 2011年7月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

争乱のタイで見た、経済格差と可能性
――「社会企業」という一筋の希望

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  カンボジアの草の根NGOの支援を終え、一度、日本に帰国した僕は幸運な出会いもあり、残りの一年で出版を目指すことに決めた。大学の後輩が友人を紹介してくれた、というまったくもって偶然のことからだった。
  こうして始まった取材の旅は、混乱の続くタイから始まった。まだ外務省から避難勧告が出されていた2010年6月、僕はバンコクに渡る。混乱の渦中でしか聞けないことがきっとある。そう考えていたからだ。

塹壕を越えて
銃撃に発展した衝突の直後のタイ特派員協会で

 焼け落ちたセントラルワールドビルのすぐ側にある、古汚い雑居ビルの最上階。ここに、海外からの特派員が集うレストランバーがある。

騒乱で焼け落ちたセントラルタワービル、日本で言えば、「新宿の伊勢丹」というところか。 焼け落ちたビルを接写した写真はこちら

 各国から大勢のジャーナリストが訪れ、タイの騒乱で亡くなった記者の追悼を行うというので、場違いながらも顔を出した。

 この「追悼式典」が開催されるまでまだ1時間半もあるにもかかわらず、すでに30名を超える記者が訪れ、互いに議論を戦わせていた。周りには、タイやバンコクに関する取材記事が並べられていた。その中で一際目を引いていたのは、銃撃戦の中で亡くなった報道カメラマンの写真だ。

 騒乱が過激化した当日。対立する勢力の一角をなす「赤シャツ」の一人が、匍匐前進で地を這う。彼の後ろを追った赤シャツの隊員の一人は頭部に銃弾を受け、殺されたと書かれてあった。

国民が自国の目指すべき姿を議論し、
行動に移す、という行動力

 この写真を見たときの葛藤は、今も忘れられない。戦争を経ずに政権交代できる国、というのがいかにありがたいことか、と思い知らされた。だがその一方で、国民が自国の目指すべき姿を議論し、行動に移す姿が、うらやましくも思えた。

 目線をバーの入り口に戻すと、幾人かの人だかりができていた。古株だと思われるジャーナリスト同士が挨拶を交わしていた。欧米人が多いが、やはり、今日は特殊な日なのだろう。それから15分が経ち、現地テレビ局のクルーが入ってくるころには、会場にいる人は50人を超え、ウェイターは走り回り、会場の熱気は加速度的に増していた。おそらくは厳かな場でもあるのだろうが、このような場は、葬式のように旧知の人々の再会の場としても機能する。ざわめきが絶えず、旧交を温め、互いの無事を祝う言葉が飛び交っていた。

 アナウンスが始まった。と同時に、ざわめきが収まり、BBCの映像が流れる。平和だったバンコク市内で弾丸が飛び交う映像だった。男性が撃たれ、倒れる。建物が炎上する。そんな映像が、撮影したジャーナリストの言葉とともに繰り返し流れていた。

 実は、この映像とジャーナリストたちの言葉や振る舞いに嫌悪感を覚えていた。なぜ、人がまさに目の前で死のうとしているのに、手を差し伸べず、写真を撮ることができるのか、と。彼らの態度にはたしかに違和感を覚えた。だけれど、彼らの映像や写真に打ちのめされ、それが記憶に焼き付いたのも事実だ。

 タイでは今も騒乱が覚めやらぬが、かつての日本の明治維新のように、人々は議論を交わし、新たな社会像を模索しつつある。それを伝えることも一つの社会の変え方なのかもしれない、と理解を示せるようになったのは、本を書き上げた後のことだった。

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加藤徹生 [社団法人wia代表理事]

社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato


辺境から世界を変える【取材紀行編】

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