なでしこはあきらめない!

 なでしこの大勝利を心から祝いたい。厳しい試合だった。佐々木監督も認めていたように「試合内容ではアメリカに負けていた」とも思う。運もあった。雨あられのように降り注ぐシュートがバーに当たったり、ボールが味方に転がったりしていた。

 それを差し引いても、日本女子代表、“なでしこジャパン”は本当に素晴らしかった。延長前は残り9分で追いつき、延長戦では残り3分で追いついた。これほどまでの粘りができるアスリートが日本にいたとは感激だ。何事も最後まであきらめてはいけないことを日本女子に教えてもらった。正直私はアメリカにリードされたこの二度ほど“ダメかもしれない”と思ってしまった。情けない。

 アメリカチームキャプテンのワンバック選手が「日本を祝福したい。日本国が誇るべきチームだ。最後まで彼女たちはあきらめなかった」と称えていたとおりだ。彼女自身も、延長後半で自分が得点した瞬間「これで勝った」という顔をしていた。澤選手の同点弾がネットを揺らした瞬間、アメリカ選手の顔が凍りつき涙目になるものもいた。

 なでしこジャパンを祝福し、誇りに思うのは当然で、そういう論評は枚挙に暇がないであろう。せっかく海外にいるので、違う視点で今回は書いてみたい。それはアメリカのフェアネスの精神だ。

青臭い正義感の塊

 アメリカに暮らして、あまりの無神経さや非効率さに、あきれたり、くたびれることも多い。しかし、たまに感激することもある。それはバカみたいに正義感の強い人間が必ずどこにでもいること。自分の子供がいじめの対象でもないのに、正義感から立ち上がって、いじめの対象の子のために戦う親たちの話を聞いた時も驚いた。何の見返りもないのに、失職することを恐れず、内部の不正を告発する人間もいる。青臭い正義感の塊のような人間がいるのだ。とにかく“フェアネスを大事にする”気風があるのだ。

 そのフェアネスが、日米決戦の女子W杯決勝のアメリカでの放送(ESPN:スポーツ専門局)においても随所に見られた。私が知っている日本の中継なら、当然のごとく日本びいき一辺倒の内容になっていたと思う。敵の称賛など許されない雰囲気が日本の中にあると思う。それはそれで批判するつもりはない。

 まず驚いたのが本戦90分の後半のシーン。大野選手が微妙なタイミングで飛び出した場面だ。審判はオフサイドと判定し、アメリカは救われた。もしオフサイド判定がなければ日本が決定的チャンスを迎えていた。何せ得点力ある大野選手とキーパーが1対1だったのだ。