強引な国会運営や公務員のプライバシーまで監視する、恐怖政治まがいの「安倍一強」の政権運営は極めて異色である。ここに来て内閣支持率が大幅に低下してきたのは、国民もやっとこの政権の「もう一つの顔」が見え始めてきた、ということであろう。
 筆者は、こうした政治リスクに加えて、経済政策・運営にも、異論・議論を排除するという本質的な問題があり、それがアベノミクスが始まって4年以上経過しても、国民が豊かになったという実感を持てない理由で、今後の安倍政権の経済運営の大きなリスクになると考えている。

2017年骨太方針
所得再分配政策が欠落

 まずは6月9日に閣議決定された「骨太方針2017」(以下、「骨太」)の中身を検証してみよう。
 アベノミクスのキーワードは、「成長と分配の好循環」で、「骨太」には「働き方改革による成長と分配の好循環の実現」と掲げられている。そして、「生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る成長と分配の好循環の構築にもつながる」
 これは、企業が生産性を向上させ、それによる売り上げや収益増の成果を雇用者に分配してほしい、ということだ。企業の生産性の向上がなければ、雇用者に分配する所得は増えないわけで、この考え方には異論はない。
 しかし、企業が雇用者に分配するというのは、「第1次分配」の話である。企業に対して、「雇用者により多く分配しろ」と命令するだけで雇用者の所得が増えるわけではない。そこはおのずと市場原理が働く分野で、企業の選択を縛るような過剰な介入は、むしろ避けるべきだろう。
 今、必要なことは、「第1次分配」に加えて、「再分配」をどう適切にしていくかということではないか。