子どもの考える力を伸ばす効果的な方法があります。それは、ビジネス書の世界的ベストセラー『ザ・ゴール』の著者、エリヤフ・ゴールドラット博士が開発した「3つの思考ツール」を活用すること。博士が設立したNPO法人「教育のためのTOC」の世界最高位資格であるマスターリード・ファシリテータとして活躍している飛田基氏の新刊『考える力の育て方』の中から、そのエッセンスをご紹介します。
今回は、前回ご説明した「クラウド」という思考ツールを使って、対立した状況を解決した子どもの事例を取り上げます。アスペルガー症候群で全主要教科補習、補導歴あり、リストカットも経験したユウキは、「クラウド」を使ってどんな解決策を出したのでしょうか?

お金持ちの友だちに
おごってもらうべきか?

 ユウキにも、クラウドを使うのにぴったりなエピソードがありました。

 ユウキの小学校にはお金持ちの子もたくさん通っていたので、ときにはお金持ちの友だちから「おごってあげるから、遊びに行こうよ」と誘われることもあったそうです。

 ユウキにとって、誘われるのはうれしい半面、悩みの種でもありました。おごってもらいたいという気持ちがある一方で、やっぱりおごってもらうのは嫌だという気持ちもあったからです。つまり、このときのユウキは「おごってもらう vs おごってもらわない」の板挟み状態に陥っていたのです。


 ユウキと私が会話を始めたときは、まず、図表1にあるように、2つの文章をふせんに書いて、見えるように貼りました。

 「友だちにおごってもらう」「友だちにおごってもらわない」

 この2つの行動が「対立」しているので、それがわかるようにイナズマ形の矢印を赤い色で書き入れました。

 重要なのは、対立している行動そのものではありません。これらの行動の背景にある「要望」、つまり本当に達成したいことです。これを見つけるのが次のステップです。

 そこで、ユウキに聞いてみました。

 私「友だちにおごってもらうと、どんなうれしいことがあるの?」

 ユウキ「ラクして楽しい思いができる」

 私「友だちにおごってもらわないと、どんなうれしいことがあるの?」

 ユウキ「トラブルの元を作らないですむ」

 ここで、確認してほしいことがあります。

 「友だちにおごってもらう」「友だちにおごってもらわない」という2つの「行動」は、どちらか一方しか選べないのに対して、「ラクして楽しい思いができる」「トラブルの元を作らないですむ」という2つの「要望」は、どちらも両立したいし、両立できるはずということです。

 さらに対話を続けました。