採用活動の本格化を直前に控えた3月11日に発生した東日本大震災。その影響から当初は2012年新卒採用数の減少が懸念されたが、実際には大手企業を中心とした大卒採用計画数は11年春比13.7%増(日経新聞社調査)と増加傾向を見せている。企業の採用意欲が鈍化しなかった背景にあるのが、定年後も継続雇用してきた団塊世代が大量に労働市場から引退する“2012年問題”だ。団塊世代の大量退職といえば、新卒採用が拡大した“2007年問題”を思い起こすが、当時と今回では問題にどのような違いがあるのだろうか。そして、2012年問題は労働市場、企業、個人に対して今後、どのような影響を与えるのか。かねて “2012年問題”を懸念してきた慶應義塾大学・樋口美雄教授が問題の本質と今後の展開を明らかにする。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
新卒求人倍率の伸びの背景にある
団塊世代の“本当の引退”
Photo by Toshiaki Usami
――3月に東日本大震災が発生したにもかかわらず、大手企業を中心とした大卒求人倍率や採用計画数は衰えていない。その背景には、どのような理由が考えられるか。
私自身も予想以上の伸びだと感じたが、2つの理由を考えることができるだろう。1つは秋口以降の震災復興に伴う需要拡大という景気の早期改善見通しによるもの、もう1つが新卒採用の抑制によって減少し続けている若手社員を補い、定年後も再雇用してきた団塊世代の大量退職に備えるという理由だ。
ただ、採用計画が実際の採用人数に一致するかというと、それには疑問が残る。バブル期などであれば、採用計画の人数に満たなければ求める質を下げてでも数を確保するような、“人数合わせ”をする傾向もあった。しかし最近では、計画通りの定員に達せずとも採用を打ち切り、質を厳選する企業が増えてきている。求人倍率の上昇によって、就職戦線は売り手市場になるわけではないため、その点には留意しなければならない。
――“2007年問題”と呼ばれた団塊世代の大量退職に伴い、新卒求人倍率は大幅に上昇し、08年、09年にはバブル期以来の2.14倍に達した(リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」)。今年、新卒求人倍率が再度上昇したが、当時の対応策では十分でなかったのか。