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震災後、週2日だけ無医地区で診療を行う女性医師
なぜ彼女は“中途半端な状態”で支援を続けるのか

加藤順子 [フォトジャーナリスト、気象予報士]
2011年8月3日
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 3月11日の震災の影響で、無医地区となった石巻市の雄勝町に、東京から医療支援に通う女性医師が開設した診療所がある。市街地から車で1時間ほどの水浜地区にある「雄勝まごのて診療所」だ。診療日はたった週2日ながら、同町で唯一の医療施設として地元の住民から頼りにされている。

 水浜地区は、入江からすぐ背後の山林にかけて、小さな集落が広がる。雄勝地域特有の細い急な坂道を、診療所のある場所まで登ると、眼下に、三陸の穏やかな海の景色が広がる。しかし住民によると、大震災に伴う津波が襲ったことで、そんな高さにまで、水は上がったという。浸水で扉が破損してしまった倉庫が、震災後、診察所に生まれ変わった。

2つの病院が津波の犠牲に…
失われた雄勝町の医療を支援する医師

 「きょうは何時から開いていますか?」「血糖値を測ってもらいたいです」

 同診療所の石井直子医師(50)のところには、朝早くから電話がかかってくる。待ってました、とばかりに、診察には1日20人近くが訪れる。朝の早い漁師町の人々のサイクルに合わせて、6月からは、診療開始時間を早めたほどだ。

 以前から雄勝町にあった2つの病院は、津波により甚大な被害を受け、現在は病院機能が停止している。 

雄勝湾のほとりに建つ「石巻市立雄勝病院」。津波は防潮堤を破壊し、3階建ての建物を飲み込んだ。患者や医師ら、屋上に逃げた人も含め、当時病院にいた人の9割が犠牲になった。
Photo by Yoriko Kato

 通りを隔てた向かいはすぐ雄勝湾、という立地の市立雄勝病院には、あの日、3階建ての建物を屋上まで飲み込む高さの津波が襲った。40人いた入院患者の全員と、医師や看護師を含めた病院職員の、計60人以上が犠牲になった。助かったのは、病院にいたうちのたった1割だ。もうひとつ、雄勝湾の奥に建っていた私立病院も、全壊。医師は無事だったが、当面の間は、再建が見込めない。

 そんな雄勝町で、3月21日以降、石井医師は医療支援を続けてきた。高齢者が多い地域のため、高血圧や糖尿病といった慢性疾患のために診察を受ける人が少なくない。また、震災直後の混乱からはだいぶ落ち着き、安定した体調を取り戻した人が増えてきたが、震災特有の現象もみられるという。

 「住民の方は、疲れも出てきていて、思い出して涙が出る、眠れない、イライラするとか、メンタルヘルスの問題が多いですね。あとは、ヘドロの影響なのか、呼吸器官系の問題と、津波から逃げるときに必死だったために、足腰や膝を痛めている例がすごく多く、整形外科的な処置をすることもしばしばです」

 石巻市はもともと、医療過疎の地域だ。市街地からもだいぶ離れたところにある雄勝町には、僻地医療の拠点として、市立病院が置かれてきた。そんな重要拠点の常勤の医師や看護師などを失ってしまった。

 「町を再生するためには、人が戻ってこなければいけません。雄勝を出て避難している人たちに、安心して戻ってきてもらうためには、医療が不可欠だと思ったんですね。病院再建は、本当は地元でやるのが一番良いことですが、当面は目途が立たないというので、支援することに決めました」

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加藤順子 [フォトジャーナリスト、気象予報士]

気象キャスターや番組ディレクターを経て、取材者に。防災、気象、対話、科学コミュニケーションをテーマに様々な形で活動中。「気象サイエンスカフェ」オーガナイザー。最新著書は、ジャーナリストの池上正樹氏との共著『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)。『ふたたび、ここから―東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)でも写真を担当し、執筆協力も行っている。他に、共著で『気象予報士になる!?』(秀和システム)。最新刊は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)。
ブログ:http://katoyori.blogspot.jp/


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